【解説】マーケティング戦略の立て方とフレームワークの使い方
最終更新日:2025-06-20作成日:2025-04-01
市場環境が目まぐるしく変化し、生活者のニーズも多様化する現代において、体系的かつ論理的に組み立てられたマーケティング戦略の重要性はかつてないほど高まっています。
本記事では、マーケティング戦略の基礎から、具体的な立て方、各ステップで役立つフレームワークの使い方、そしてさまざまなマーケティング施策の種類までを網羅的に解説します。
マーケティング戦略とは?
マーケティング戦略とは、企業の目標達成のために、市場での競争優位を確立し、顧客に対して自社の製品やサービスを効果的に提供するための一連の計画や方針です。
マーケティング戦略の主な目的は、顧客満足度を高めつつ、企業の持続的な成長と収益性の向上を実現することです。明確な戦略を持つことで、限られた経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)を最も効果的な活動に集中させることが可能となります。
マーケティング戦略の立て方
ここでは、一般的なマーケティング戦略の立て方を主要な3つのステップに分け、各ステップで役立つフレームワークとその活用方法についても解説します。
1.内部環境・外部環境の分析
戦略立案の最初のステップは、自社を取り巻く環境を深く理解することです。具体的には、自社の強み・弱みといった内部環境と、競合動向・市場ニーズといった外部環境の両面から分析を行います。この分析を通して、自社がどのような市場で、どのような競争環境にあり、どのような顧客に対して、どのような価値を提供できるのか、あるいは提供すべきなのかの基礎となる情報を整理します。
内部環境分析では、自社の経営資源、技術力、ブランド力、組織文化、顧客基盤、収益構造などを棚卸しし、強みと弱みを明らかにします。自社の得意なこと、競合他社に対して優位性を持つ点は何か、逆に不足しているリソースや改善が必要な点はどこかを洗い出します。
過去の成功事例や失敗事例から学ぶことも、内部環境を理解する上で重要です。自社の現状を客観的に評価することで、どのような戦略が実行可能であるか、どのような課題を克服する必要があるかが明確になります。
外部環境分析では、市場全体の動向、顧客のニーズや行動の変化、競合他社の動向、技術の進化、法規制や社会情勢の変化などを分析します。これらの外部環境の中から、自社にとってのビジネスチャンスやリスクを見つけ出します。
たとえば、新たな技術の登場は市場拡大の機会となりえますが、主要な顧客層の人口減少は長期的な脅威となるといった分析です。また、競合他社がどのような戦略をとっているのか、どのような強みを持っているのかを分析することも、外部環境分析の重要な要素です。市場全体を俯瞰し、自社がどのような戦略をとるべきか、あるいは避けるべきかを見極めます。
この内部・外部環境分析を行う際に役立つフレームワークは複数存在しますが、代表的なものとしては以下のものが挙げられます。それぞれのフレームワークは、分析対象とする範囲や視点が異なります。詳しくは後述します。
3C分析 | 顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の3つの視点から分析を行います。自社と顧客、競合の関係性をシンプルに把握するのに適しています。 |
PEST分析 | 政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の4つの外部環境要因が自社に与える影響を分析します。マクロな視点から、長期的な視点での機会や脅威を洗い出すのに有用です。 |
SWOT分析 | 内部環境の強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、外部環境の機会(Opportunities)、脅威(Threats)を洗い出し、それらを組み合わせて戦略の方向性を検討します。4つの要素をマトリクス形式で整理し、強みと機会を組み合わせた「攻め」の戦略、弱みと脅威を組み合わせた「防御・回避」の戦略などを検討するのに役立ちます。 |
これらのフレームワークを単独で使用する場合もあれば、組み合わせて使用する場合もあります。たとえば、PEST分析でマクロ環境の変化を捉え、それを踏まえて3C分析で市場の競争環境を詳細に分析し、最後にSWOT分析で自社の取るべき戦略の方向性を検討するといった分析方法も考えられます。
単に情報を集めるだけでなく、その情報が自社のマーケティング戦略にどのような影響を与えるのかを考察することが重要です。
2.基本戦略の策定
環境分析で得られた知見を基に、次に具体的な基本戦略を策定します。この段階では、「誰に(どの顧客に)」「どのような価値を」「どのように提供するか」を定めます。これは、戦略の根幹となる部分であり、この段階での判断がその後の全てのマーケティング活動の方向性を決定づけます。ここで中心となるのが、STP分析(Segmentation・Targeting・Positioning)とペルソナ設定です。これらの手法を用いることで、自社の製品やサービスを最も必要としている顧客層を見つけ出し、その顧客層に対してどのように自社の優位性を印象づけるかを明確にします。以下でそれぞれのやり方を解説します。
セグメンテーション(Segmentation)
セグメンテーション(Segmentation)とは、市場にいる不特定多数の顧客を、共通のニーズや特性を持ついくつかのグループ(セグメント)に分割することです。顧客の異なるニーズや特性に着目して市場を細分化することで、それぞれのセグメントにあわせたマーケティング施策が可能になります。セグメントの切り口としては、以下のようなものが挙げられます。これらの切り口を単独または組み合わせて用いることで、顧客グループを抽出します。
地理的変数 | 国、都道府県、市区町村気候人口密度文化など | (例)東京都在住 |
人口動態変数 | 年齢性別所得職業学歴家族構成ライフステージなど | (例)30代女性金融業勤務年収600万以上子供が2人以上 |
心理的変数 | ライフスタイル価値観パーソナリティ購買動機興味・関心など | (例)年に1回旅行に行く健康志向が高いオーガニック食品に関心あり |
行動変数 | 購買頻度購買量使用用途情報源ブランドロイヤルティ製品に対する知識レベルなど | (例)商品Aの購入経験あり3か月以内に問い合わせしたユーザーSNSでの情報収集 |
ターゲティング(Targeting)
ターゲティング(Targeting)とは、セグメンテーションによって分割された市場の中から、自社が参入すべき、あるいは最も注力すべき特定のセグメントを選択することです。選択したセグメントがもつニーズに対して、自社の製品やサービスが適合するのか、収益性はあるのか、自社の強みを活かせる市場であるかなどを慎重に評価します。全てのセグメントを追いかけるのではなく、自社が最も成功する可能性の高いセグメントに焦点を絞ることで、マーケティング活動の効果を最大化することを目指します。
ターゲティングを行う際の評価基準としては、以下のような要素が考慮されます。これらの要素を総合的に評価し、自社にとって最も魅力的なターゲットセグメントを決定します。
市場規模と成長性 | そのセグメントは十分に大きく、将来的に成長が見込めるか? 市場規模が小さすぎる場合や、今後の縮小が予測されるセグメントは、たとえ競合が少なくても魅力度は低いと言えます。 |
競合の状況 | そのセグメントにおける競合の数や会社規模はどの程度か? 自社はその中で差別化できるか? 強力な競合がひしめいているセグメントは、参入障壁が高い可能性があります。 |
自社のリソース | そのセグメントにアプローチするためのリソース(予算、人員、技術、ノウハウなど)は十分か? ターゲットセグメントに効果的にリーチし、製品やサービスを提供するための経営資源がなければ、戦略は絵に描いた餅になってしまいます。 |
リーチ可能性 | そのセグメントの顧客に効果的に情報を届けられるか? ターゲット顧客が利用するメディアや情報チャネルを把握し、そこに効率的にアプローチできる手段があるかを確認します。 |
顧客との適合性 | 自社の製品やサービスが、そのセグメントの顧客のニーズや課題にどれだけ合致しているか? 顧客が自社の提供価値を高く評価してくれる可能性はどの程度かを確認します。 |
ターゲットとするセグメントを絞り込むことで、マーケティング活動の焦点を明確にし、限られた資源を最も効果的に配分することが可能になります。これは、特に中小企業やスタートアップのようにリソースが限られている場合に、効率的なマーケティングを行う上で非常に重要です。
ポジショニング(Positioning)
ポジショニング(Positioning)とは、ターゲットとするセグメントの顧客の心の中に、自社の製品やサービスを競合他社のものとくらべてどのような位置づけで認識してもらいたいかを明確にすることです。より簡単にいうと、「同じセグメントをターゲットにしている競合との差別化」です。
顧客にとって魅力的で、競合にはない独自の立ち位置を確立することを目指します。ポジショニングを行うことで、顧客の頭の中に自社製品のユニークな価値を印象づけ、選択してもらうことにつながります。
ポジショニングを検討する際には、以下の点を考慮します。
顧客にとっての価値 | ・ターゲット顧客が最も重要視する価値は何か? ・価格、品質、機能、デザイン、ブランドイメージ、顧客体験など、ターゲット顧客が購買を決定する上で最も重視する要素は何か? |
競合との差別化 | ・競合他社はターゲット顧客に対してどのような価値を提供しているか? ・競合の強み/弱みは何か? ・自社はどのように差別化できるか? |
自社の強み | ・自社の強みの中で、ターゲット顧客にとって魅力的な差別化要因となるものは何か? ・環境分析で見つけた自社の強みの中で、ターゲット顧客にとって価値があり、かつ競合が真似しにくいものは何か? |
これらの要素を考慮し、「〇〇(ターゲット)にとって、△△(競合)とは違い、□□(差別化要因)な、自社の製品・サービス」といったかたちで、ポジショニングを明確に定義します。
たとえば、「忙しいビジネスパーソンにとって、他社のコーヒーとは違い、手軽に本格的な味わいが楽しめる、高品質インスタントコーヒー」といった具体的な表現を試みます。ポジショニングは、その後のマーケティング戦略の基盤となります。Webサイトでの訴求メッセージ、広告クリエイティブ、店頭での製品陳列方法など、あらゆる顧客との接点において、このポジショニングが一貫していることが重要です。
ペルソナ設定
ペルソナ設定とは、ターゲティングで定めた顧客セグメントの中から、一人の顧客であるかのような架空の人物像を、詳細な情報に基づいて具体的に設定することです。年齢、性別、職業、役職、年収、家族構成といった基本的な属性にあわせて、趣味、関心、ライフスタイル、価値観、情報収集の方法、購買行動、悩み、目標なども盛り込み、その人物像がまるで目の前にいるかのようにイメージできるようにします。
ペルソナは、単なる統計データの平均値ではなく、感情や意識を持った「生きた人間」として描くことが重要です。なぜその製品やサービスに興味を持つのか、どのような課題を解決したいのか、購買に至るまでにどのような不安を感じるのかなど、顧客のインサイトを深く掘り下げます。設定したペルソナは、定期的に見直し、実際の顧客データや市場の変化にあわせてアップデートしていく必要があります。
また、ペルソナを設定するにあたって、マーケティング活動に関わるメンバー間での共通認識を持つことも重要です。たとえば、Webサイトの担当者、広告運用担当者、コンテンツ作成担当者など、それぞれの立場からターゲット顧客像を共通認識として持つことで、一貫性のあるマーケティング活動を行うことができます。ペルソナ像が明確であれば、どのようなメッセージが響くのか、どのチャネルでアプローチするのが効果的なのか、どのようなコンテンツが求められているのかといったことが具体的にイメージしやすくなります。これにより、より顧客中心の視点に立ったマーケティング戦略や施策を検討することが可能になります。
3.具体的施策の策定
基本戦略(STP+ペルソナ)で「誰に」「どのような価値を」提供するかが明確になったら、次にその価値を顧客に「どのように提供するか」という具体的な施策を検討します。この段階では、製品やサービスの設計、価格設定、流通チャネル、コミュニケーション戦略といった要素を具体化していきます。基本戦略で定めた方向性に基づき、顧客に価値を届け、目標達成につながる具体的なアクションプランを策定します。ここで役立つのが4P分析、4C分析、そしてカスタマージャーニーマップ策定です。
4P分析
4P分析は、企業視点からマーケティング戦略を具体化するためのフレームワークです。以下の4つの要素から構成されます。
Product(製品・サービス) | 顧客のニーズを満たす製品やサービスのことです。どのような機能や特徴を持つか、どのようなデザインか、どのような品質レベルか、ブランド名は何か、保証やサポートはどうかなど、製品やサービスの核となる部分を具体的に定義します。ターゲット顧客のニーズやポジショニングに基づき、最適な製品仕様を検討します。 |
Price(価格) | 製品やサービスの価格設定のことです。単に製造コストや競合価格を考慮するだけでなく、ターゲット顧客がその製品やサービスに感じる価値、すなわち価格を決定します。価格設定は、製品のポジショニングやブランドイメージに大きく影響します。割引、支払い方法、信用条件などもPriceの要素に含まれます。 |
Place(流通) | 製品やサービスを顧客に届けるための流通チャネルや販売場所のことです。顧客が製品やサービスをいつ、どこで、どのように入手できるかを決定します。直販、卸売、小売、オンラインストア、代理店販売など、さまざまなチャネルの中からターゲット顧客が最も利用しやすい、あるいは製品・サービスの特性に合ったチャネルを選択します。在庫管理や物流システムもPlaceの要素に含まれます。 |
Promotion(プロモーション) | 製品やサービスの存在や価値を顧客に伝え、購買を促進するためのコミュニケーション活動のことです。広告、PR、販売促進(セールスプロモーション)、人的販売(営業活動)、デジタルマーケティング(SNS、メール、コンテンツなど)といった、さまざまな手段を用いてターゲット顧客にアプローチします。どのようなメッセージを、どのようなチャネルで、いつ、どのくらいの頻度で伝えるかを計画します。 |
4P分析では、これら4つの要素を整合性を持って組み合わせることで、ターゲット顧客に対して最適なかたちで製品やサービスを提供するための具体的な施策を検討します。たとえば、高品質・高価格帯の製品であれば、高級感のあるパッケージデザインを採用し(Product)、それに見合った価格を設定し(Price)、限られた専門チャネルで販売し(Place)、ブランドイメージを重視した広告を展開する(Promotion)といったように、各要素を一貫させることが重要です。それぞれのPが独立しているのではなく、互いに連携し、相乗効果を生み出すように設計する必要があります。
4C分析
4C分析は、4P分析を顧客視点から捉え直したものです。企業側の視点である4Pに対して、顧客側の視点からマーケティング施策を評価・検討するために使用されます。以下の4つの要素から構成されます。
Customer Value(顧客価値) | 顧客が製品やサービスから得られる価値のことです。単なる機能や品質だけでなく、顧客が抱える課題の解決、得られるメリット、感情的な満足感、自己実現への貢献といった、顧客が「これは良い」と感じる全ての価値を含みます。企業が「提供したい価値」ではなく、顧客が「受け取る価値」に焦点を当てます。 |
Cost(顧客負担) | 顧客が製品やサービスを入手するために支払うすべてのコストのことです。価格だけでなく、購入にかかる時間、労力、情報収集の手間、交通費、利用にかかる学習コスト、心理的なハードルといった、顧客が負担する全てのコストを含みます。単に安ければ良いということではなく、顧客が感じる価値に見合った負担であるかが重要です。 |
Convenience(利便性) | 顧客が製品やサービスを知り、探し、購入し、入手し、利用するまでのプロセスにおける利便性、店舗へのアクセス、オンラインでの購入手続きの簡単さ、支払い方法の多様性、問い合わせ窓口の対応時間、製品情報の見つけやすさなど、顧客にとっての「使いやすさ」や「手軽さ」を追求します。 |
Communication(コミュニケーション) | 顧客と企業との間の双方向のコミュニケーションのことです。一方的な広告や情報発信だけでなく、顧客からの問い合わせへの対応、SNSでの対話、レビューへの返信、コミュニティ運営など、顧客の声を聞き、顧客との関係性を構築する視点が含まれます。顧客との良好なコミュニケーションは、信頼関係の構築やブランドロイヤルティの向上につながります。 |
4C分析を用いることで、企業視点の4Pだけでは見落としがちな、顧客にとっての本当の価値や負担、利便性などを深く理解することができます。顧客視点に立つことで、より顧客満足度の高い製品・サービス設計やマーケティング施策を検討することが可能になります。4Pと4Cは対になっており、4Pで検討した施策が、顧客視点の4Cでどのように評価されるかを確認することで、より実効性の高い戦略を立てることができます。たとえば、Place(流通)でオンライン販売を強化することは、Customer Value(顧客価値)としていつでもどこでも購入できる利便性を提供し、Cost(顧客負担)である店舗に行く手間や時間を削減することにつながります。
カスタマージャーニーマップ策定
カスタマージャーニーマップ策定は、ターゲット顧客(ペルソナ)が、自社の製品やサービスを知り、興味を持ち、検討し、購入し、利用し、そしてファンになるまでの一連のプロセス(旅)を可視化する手法です。各ステージにおいて、顧客がどのような情報に接触し(タッチポイント)、どのような感情を抱き、どのような行動をとるのかを詳細に描き出します。これは、顧客の視点に立って購買プロセスを理解するための強力なツールです。
カスタマージャーニーマップを作成することで、以下の点が明確になります。これにより、顧客体験全体を俯瞰し、ボトルネックとなっている部分や、顧客満足度を高める機会を見つけ出すことができます。
顧客の視点 | 顧客がどのような体験をしているのか、企業側の視点だけでは気づきにくい顧客のリアルな感情や行動を理解できます。たとえば、「製品に興味を持ったものの、どこで買えるか分からず離脱してしまった」といった顧客のつまずきを発見できます。 |
タッチポイントの特定 | 顧客が企業や製品・サービスと接触するあらゆる接点(Webサイト、SNS、広告、店舗、問い合わせ窓口、カスタマーサポート、製品パッケージなど)を洗い出せます。これにより、顧客がどのチャネルで、どのような情報を求めているのかを把握できます。 |
課題や機会の発見 | 各ステージにおいて顧客が抱える不満や課題、あるいは企業にとっての改善点や新たな機会を発見することができます。たとえば、「製品の使い方に関する情報が不足していて困っている」といった顧客の課題は、FAQページの設置やチュートリアル動画の作成といった改善の発見につながります。 |
最適な施策の検討 | 各ステージの顧客の状態にあわせて、最も効果的なコミュニケーションや施策を検討できます。たとえば、「製品を比較検討している段階」の顧客には、製品比較情報を掲載したWebページや、導入事例の提供などが考えられます。 |
カスタマージャーニーマップは、ワークショップ形式で関係部署のメンバー(マーケティング、営業、カスタマーサポート、製品開発など)と共同で作成することが推奨されます。それぞれの部門が持つ顧客に関する知見を持ち寄ることで、より網羅的で正確なマップを作成できます。顧客視点に立ち、客観的なデータ(Webサイトのアクセス解析データ、顧客アンケート結果など)や定性的な顧客の声(インタビュー、ソーシャルリスニングなど)も参考にしながら、顧客の「あるべき姿」(理想的な顧客体験)と「現状」のギャップを分析し、そのギャップを埋めるための施策を検討していきます。作成したマップは、チーム全体で共有し、マーケティング施策の実行や改善の指針として活用します。顧客体験を向上させることは、顧客満足度を高め、結果として売上増加やリピート率向上につながります。
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第一想起獲得のためのブランド戦略の基本要素を整理、共通言語を確立します。
以上がマーケティング戦略と具体的な施策の検討方法になります。次の章では施策の種類についてご説明します。
マーケティング施策の種類
マーケティング戦略に基づいて具体的な施策を実行する段階では、多岐にわたる選択肢の中から、ターゲット顧客に最も効果的にアプローチできる手法を選び、組み合わせて実行します。戦略で定めたターゲット顧客、提供価値、ポジショニングに基づき、最適なコミュニケーションチャネルとメッセージを選択することが重要です。ここでは、主なマーケティング施策の種類について、その特徴と活用例を解説します。
広告施策
広告は、製品やサービスの存在や魅力を広く認知させ、購買意欲を喚起するための代表的な施策です。ターゲット層に効率的にリーチし、短期間での認知度向上や集客効果が期待できますが、一般的にコストがかかります。
ディスプレイ広告・バナー広告
Webサイトやアプリの広告枠に表示される画像や動画形式の広告です。視覚的な訴求力が高く、ブランドイメージの構築や特定の商品・サービスの認知度向上に利用されます。ターゲット顧客の興味関心や属性、過去の行動履歴などに基づいてターゲティングを行うことで、関心を持つ可能性の高い層に効率的にリーチすることが可能です。リターゲティング広告(一度Webサイトを訪れたユーザーに再度広告を表示する手法)も効果的です。
リスティング広告
ユーザーが検索エンジン(Google、Yahoo!など)で特定のキーワードを検索した際に、検索結果ページの上部や下部に「広告」として表示されるテキスト形式の広告です。ユーザーが自ら情報を探し求めているタイミングでアプローチできるため、ニーズが顕在化しており、コンバージョン(購入、問い合わせなど)につながりやすいという特徴があります。
アフィリエイト広告
Webサイトやブログの運営者(アフィリエイター)が、企業の製品やサービスを紹介し、その紹介を通じて成果(商品購入やサービス登録など)が発生した場合に、企業がアフィリエイターに報酬を支払う成果報酬型の広告です。自社の製品やサービスに関心を持つ可能性の高い生活者が多く集まるメディアに掲載することで、費用対効果の高い集客が期待できます。ただし、アフィリエイターによる紹介内容の管理が必要となります。
マス広告
テレビ、ラジオ、新聞、雑誌といったマスメディアを活用した広告です。非常に広い範囲のターゲット層に短期間でリーチできるため、新製品の発表時や、企業の認知度を全国的に、あるいは広範囲にわたって飛躍的に高めたい場合に効果を発揮します。ブランドイメージの浸透にも貢献しますが、一般的に費用が高額になり、効果測定が比較的難しいという側面もあります。
DM
ダイレクトメールの略称で、顧客リストに対して、郵送やメールなどで直接情報や案内を送付する施策です。顧客の属性や過去の購買履歴などに基づいてリストをセグメンテーションし、パーソナライズされた情報や特別なオファーを届けることで、顧客とのエンゲージメントを高め、購買や問い合わせにつなげることを目指します。特に既存顧客へのアプローチや、休眠顧客の掘り起こしに有効です。
OOH広告
Out of Home(家の外)の略で、看板広告、交通広告(電車内広告、駅広告、バス広告など)、屋外デジタルサイネージ、イベント会場での広告など、家庭以外の場所で接触する広告全般を指します。特定のエリア(駅周辺、商業施設周辺など)のターゲット層に繰り返し接触させることで、エリア単位での認知度向上や、店舗への集客に効果を発揮します。近年では、デジタルサイネージの普及により、より動的で魅力的な表現や、時間帯にあわせた広告配信も可能になっています。
コンテンツマーケティング施策
コンテンツマーケティングは、顧客にとって価値のある情報やエンターテイメント性の高いコンテンツ(記事、ブログ、動画、インフォグラフィック、ホワイトペーパーなど)を作成・配信することで、顧客の興味を引きつけ、関係性を構築し、最終的に顧客化やファン化を目指す手法です。一方的な売り込みではなく、顧客の課題解決や興味関心に応える情報を提供することで、顧客からの信頼を獲得し、長期的な関係性を築くことを目指します。
SNSマーケティング
Facebook、X(旧Twitter)、Instagram、LINE、TikTokなどのソーシャルネットワーキングサービスを活用したマーケティング活動です。情報発信によるブランドや製品の認知拡大、生活者との双方向コミュニケーションによるエンゲージメント向上、ファンコミュニティ形成などが可能です。ユーザー生成コンテンツ(UGC)の促進や、インフルエンサーとの連携も効果的です。SNS広告も活用することで、精緻なターゲティングに基づいたリーチが可能です。
メールマーケティング
顧客の同意を得て収集したメールアドレスリストに対して、情報提供やプロモーションなどのメールを配信する施策です。顧客の属性や過去の行動履歴、興味関心などに基づいてリストをセグメンテーションし、パーソナライズされたコンテンツやオファーを配信することで、開封率やクリック率を高め、Webサイトへの誘導やコンバージョンにつなげます。MAツールを活用することで、顧客の行動にあわせたステップメールの自動配信など、効率的で効果的なメールマーケティングを行うことができます。
ブログ・オウンドメディア
企業自身が運営するブログやWebサイトです。製品やサービスに関する情報だけでなく、業界の動向、顧客の課題解決に役立つノウハウ、導入事例、社員インタビューなど、ターゲット顧客にとって価値のある多様なコンテンツを発信します。潜在顧客の集客(特にSEO経由)や既存顧客との関係構築、ブランドイメージ向上を目指します。自社の専門性や信頼性をアピールする場としても重要です。
SEO・AIO
Search Engine Optimization(検索エンジン最適化)の略で、自社のWebサイトやコンテンツが、検索エンジンの検索結果で上位に表示されるように改善する施策です。ユーザーが特定のキーワードで検索した際に、自社の情報を見つけてもらいやすくすることで、オーガニック検索(広告枠ではない通常の検索結果)からの流入を増やし、見込み顧客の獲得を目指します。ターゲットキーワードの選定、ユーザーの検索意図の理解、質の高いコンテンツ作成、テクニカルなサイト改善などが含まれます。検索エンジンのアルゴリズムは常に変化するため、継続的な取り組みが必要です。
近年は検索アルゴリズムにAIが搭載され、WEBページをクリックせずとも検索結果だけで必要な情報が取得できるようになりました。このようなAIを活用した検索アルゴリズムへの最適化を目指すAIO(AI Optimization)やGEO(生成エンジン最適化)戦略への取り組みも重要です。
LPO・EFO
LPO(Landing Page Optimization)は、Webサイト訪問者が最初にアクセスするページ(ランディングページ)を最適化し、問い合わせや購入といった目標とする行動(コンバージョン)につながる確率を高める施策です。ランディングページの構成、デザイン、キャッチコピー、入力フォームなどを改善することで、訪問者の離脱を防ぎ、コンバージョン率を向上させます。EFO(Entry Form Optimization)は、問い合わせフォームや申し込みフォームなどの入力フォームを最適化し、ユーザーがストレスなくスムーズに情報を送信できるように改善する施策です。入力項目の削減、入力例の表示、エラー表示の分かりやすさなどを改善することで、フォームからの離脱率を低減し、コンバージョン率向上に貢献します。
動画マーケティング
動画コンテンツを活用したマーケティング施策です。製品やサービスの説明、使い方、ブランドストーリー、顧客の声、企業文化の紹介、社員インタビュー、セミナー内容のダイジェストなど、多様なテーマで動画を作成し、Webサイト、SNS、動画共有プラットフォーム(YouTubeなど)で配信します。視覚と聴覚に訴えかける動画は、情報の伝達力が高く、複雑な情報も分かりやすく伝えられるため、ユーザーの理解促進や共感形成に効果的です。エンゲージメント率も高い傾向があります。
オフライン集客施策
デジタルチャネルだけでなく、現実世界での顧客との接触を通じて集客や関係構築を行う施策です。オンライン施策と組み合わせることで、より多角的なアプローチが可能になります。
セミナー
製品やサービスに関する情報提供、業界のトレンド解説、顧客の課題解決に役立つノウハウ提供、専門知識の共有などを目的としたセミナーを開催します。オフライン(会場開催)またはオンライン(ウェビナー)で行われます。参加者との直接的なコミュニケーションや質疑応答を通じて、信頼関係を構築し、見込み顧客の育成(リードナーチャリング)や顧客のファン化につなげます。自社の専門性や権威性を示す場としても重要です。
イベント
製品発表会、体験会、ワークショップ、地域イベントへの出展など、顧客が直接参加・体験できるイベントを開催します。製品やサービスのリアルな魅力を体感してもらうことや、顧客同士、あるいは顧客と企業との交流を促進することを目的とします。五感を刺激する体験を提供することで、顧客の記憶に残りやすく、強い印象を与えることができます。イベントでの顧客との直接的な対話は、貴重なフィードバックを得る機会ともなります。
展示会
業界関連の展示会やトレードショーに出展し、自社の製品やサービスを広く紹介します。特定の業界に関心を持つ多くの企業担当者や見込み顧客と直接対面し、製品デモの実施や具体的な商談を行うことができる効率的な機会です。競合他社の出展状況や来場者の反応から、市場の最新トレンドやニーズを把握する機会でもあります。名刺交換や資料配布を通じて、新たなリードを獲得することを目指します。
ファンマーケティング
既存顧客の中でも、特に自社の製品やサービス、ブランドに対して強い愛着や共感を持っている顧客(ファン)との関係性を深め、そのファンが自社を応援し、クチコミなどで周囲に推奨してくれるような働きかけを行う施策です。ファンは、ブランドにとって最も価値の高い資産の一つです。ファン限定のイベントやコミュニティ運営、特別な情報の先行提供、製品開発への意見交換の機会などを設けることで、ファンのロイヤルティをさらに高め、ポジティブなクチコミや推奨活動を促進します。熱狂的なファンは、新しい顧客を獲得するための強力な推進力となります。
CRM・SFA施策
顧客関係管理(CRM:Customer Relationship Management)システムや営業支援システム(SFA:Sales Force Automation)といったツールを活用し、顧客情報の一元管理、顧客とのコミュニケーション履歴の追跡、営業プロセスの可視化・効率化などを行う施策です。これらのシステムを導入・活用することで、顧客一人ひとりの状況にあわせた最適化されたアプローチを可能にし、顧客満足度向上や売上増加につなげます。
MA(マーケティングオートメーション)
マーケティング活動における定型的なプロセス(メール配信、Webサイト上での行動追跡、顧客のセグメンテーション、スコアリングなど)を自動化するツールや仕組みです。見込み顧客が獲得できた後の育成プロセス(リードナーチャリング)を効率化し、顧客の興味関心や行動にあわせた適切なタイミングで情報提供を行うことで、購買意欲を高め、成約確度の高いリードを営業部門に引き渡すことを目指します。マーケティング担当者の作業負担を軽減し、より戦略的な業務に集中できるようになります。
SFA(セールスフォースオートメーション)
営業活動における顧客情報、案件情報、営業担当者の活動履歴、進捗状況などを記録・管理し、営業プロセス全体を可視化・効率化するツールや仕組みです。営業担当者間の情報共有を促進し、営業活動の属人化を防ぎ、受注確度の分析や売上予測を立てるのに役立ちます。営業部門全体の生産性向上や成約率向上に貢献します。MAとSFAを連携させることで、マーケティング部門と営業部門の情報連携がスムーズになり、より効果的な営業活動が可能になります。
その他施策
ウェビナー
Webとセミナーを組み合わせた造語で、オンライン形式で開催されるセミナーです。インターネット環境があればどこからでも参加できるため、地理的な制約がなく、多くの参加者を集めることができます。録画によるアーカイブ配信も可能なため、一度開催すれば繰り返し利用でき、コスト効率が高く、広範な層への情報提供やリード獲得、顧客育成に有効です。ライブでの質疑応答やチャット機能を活用することで、参加者とのインタラクティブなコミュニケーションも可能です。
インフルエンサーマーケティング
ソーシャルメディア(Instagram、YouTube、TikTokなど)などで多くのフォロワーを持ち、特定の分野で影響力のある人物(インフルエンサー)に製品やサービスを紹介してもらうマーケティング手法です。インフルエンサーが持つ影響力や、特定のコミュニティにおける信頼性を活用することで、ターゲット層に効果的にリーチし、製品やサービスの認知度向上、購買促進、ブランドイメージ向上を図ります。インフルエンサーの選定や、プロモーション内容の透明性確保が重要となります。
音声広告
音声広告とは、インターネットラジオや音楽ストリーミングサービス、ポッドキャストなど、音声メディアを通じて配信される広告のことです。リスナーが音声コンテンツを聴いている際に、その合間や冒頭・終わりに挿入されるかたちで流れます。音声のみで情報を伝えるため、通勤中や家事中のユーザーにも目を使わずに接触できるのが特徴です。
マーケティング戦略立案に役立つフレームワーク
これまでマーケティング戦略の立て方の中でSTPや4P・4C、カスタマージャーニーマップといったフレームワークを紹介してきましたが、戦略立案のさまざまな局面で役立つフレームワークは他にも数多く存在します。これらのツールを適切に活用することで、現状分析の精度を高めたり、戦略の方向性を検討したりするのに役立ちます。ここでは、代表的なものをいくつか紹介します。
3C分析

前述の環境分析でも触れましたが、3C分析(顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company))は、戦略立案の初期段階で現状を把握するために非常に有用です。顧客のニーズや市場の変化、競合の強み・弱み、そして自社のリソースや能力を客観的に分析することで、自社が戦うべき市場や、そこでどのように優位性を築くかの方向性が見えてきます。この3つの要素の相互関係を理解することが、競争優位性の源泉を見つけ出す鍵となります。たとえば、顧客のニーズを深く理解し(Customer)、そのニーズに対して競合が十分に応えられていない領域を見つけ(Competitor)、そこに自社の強み(Company)を投入することで、市場での勝機を見出すことができます。
SWOT分析

SWOT分析は、内部環境の強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、外部環境の機会(Opportunities)、脅威(Threats)を洗い出し、それらを組み合わせて戦略の方向性を検討するためのフレームワークです。これは、環境分析で得られた情報を整理し、具体的な戦略オプションを検討するのに特に役立ちます。
まず、自社の強み(Strengths)と弱み(Weaknesses)といった内部環境を洗い出します。これは、リソース、能力、ブランドイメージ、組織文化などを評価します。次に、市場トレンド、競合動向、技術革新、法規制といった外部環境における機会(Opportunities)と脅威(Threats)を特定します。
これらの4つの要素をマトリクス形式で整理し、それぞれの組み合わせから考えられる戦略の方向性を検討します。
- SO戦略(強み×機会)
- 自社の強みを活かして、市場の機会を最大限に活用する戦略。「攻め」の戦略とも言えます。
- WO戦略(弱み×機会)
- 自社の弱みを克服しつつ、市場の機会を捉える戦略。弱点の克服や新たなリソース獲得が必要になる場合があります。
- ST戦略(強み×脅威)
- 自社の強みを活かして、外部からの脅威を回避したり、影響を最小限に抑えたりする戦略。「防御」の戦略とも言えます。
- WT戦略(弱み×脅威)
- 自社の弱みを克服しつつ、外部からの脅威によるダメージを最小限に抑える戦略。最も厳しい状況であり、事業撤退や抜本的な改革が必要になる場合もあります。
SWOT分析を行うことで、自社の状況と外部環境を踏まえた上で、どのような戦略オプションが存在するのかを体系的に検討することができます。ただし、SWOT分析自体は単なる現状分析のツールであり、ここから導き出された戦略オプションを実行可能な具体的な施策に落とし込むことが重要です。
PEST分析

PEST分析(政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)は、外部環境の中でも特にマクロな視点から、自社に影響を与える可能性のある要因を洗い出すためのフレームワークです。これは、長期的な視点での環境変化を予測し、将来的な事業機会やリスクを把握するのに役立ちます。
- 政治(Politics)
- 法改正、規制緩和、税制変更、政権交代、国際情勢など、政治的な要因がビジネスに与える影響を分析します。
- 経済(Economy)
- 景気変動、物価、金利、為替レート、失業率、生活者の購買力など、経済的な要因が市場や顧客に与える影響を分析します。
- 社会(Society)
- 人口構成の変化(少子高齢化など)、ライフスタイルの変化、価値観の多様化、教育水準、文化、流行など、社会的な要因が顧客ニーズや行動に与える影響を分析します。
- 技術(Technology)
- 新技術の登場(AI、IoT、ブロックチェーンなど)、技術革新のスピード、研究開発への投資動向など、技術的な要因が製品開発、生産プロセス、マーケティング手法などに与える影響を分析します。
PEST分析を行うことで、自社のビジネスがどのようなマクロ環境の影響を受ける可能性があるかを理解し、将来的な戦略の方向性を検討する上での基礎情報とすることができます。たとえば、高齢化社会の進展という社会的な変化は、高齢者向けの製品・サービスの市場拡大という機会を示唆するかもしれません。
AIDMA分析・AISAS分析

これらのフレームワークは、生活者の購買行動プロセスをモデル化したものです。生活者が製品やサービスを認知してから購買に至るまでの心理的プロセスや行動を理解することで、各段階においてどのようなマーケティング施策が効果的かを検討するのに役立ちます。
- AIDMA分析:Attention(注意)→Interest(関心)→Desire(欲求)→Memory(記憶)→Action(行動)の頭文字をとったモデルです。主にテレビや新聞といったマスメディアが情報伝達の中心だった時代の生活者の購買行動を示しています。まず広告などで製品の存在に注意を引きつけ、興味を持たせ、欲しいという欲求を喚起し、それを記憶にとどめ、最終的に購買行動に移るという一連の流れを捉えています。
- AISAS分析:Attention(注意)→Interest(関心)→Search(検索)→Action(行動)→Share(共有)の頭文字をとったモデルです。インターネットやSNSが普及した現代における生活者の購買行動を示しています。特に、「Search(検索)」と「Share(共有)」という、インターネットならではの行動が組み込まれている点が特徴です。生活者は製品に興味を持った後、自分自身で情報を検索し、購買を決定し、さらにその体験をSNSなどで共有するという行動をとるようになっています。
これらのモデルを理解することで、ターゲット顧客が購買に至るまでにどのようなプロセスをたどるのか、各プロセスでどのような情報に接触し、どのような心理状態になるのかを把握することができます。これにより、各段階において顧客に適切な情報を提供し、購買行動を後押しするための施策を検討するのに役立ちます。カスタマージャーニーマップ策定の際の参考にもなり、各タッチポイントでどのようなコンテンツやメッセージを提示すべきかを考える上で重要な示唆を与えてくれます。
PPM

PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)は、ボストン・コンサルティング・グループが開発したフレームワークで、複数の事業や製品を「市場成長率」と「市場シェア」の2つの軸で評価し、最適な資源配分を検討するために使用されます。自社の事業全体を俯瞰し、どの事業に投資すべきか、あるいはどの事業から撤退すべきかといった経営判断や、それに紐づくマーケティング戦略の方向性を検討するのに役立ちます。以下の4つの象限に分類されます。
- 花形(Stars)
- 市場成長率が高く、市場シェアも高い事業。競争が激しい市場であるため多額の投資が必要ですが、将来の主力事業となる可能性が高いです。積極的に投資し、シェア拡大を目指すマーケティング戦略が求められます。
- 金のなる木(Cash Cows)
- 市場成長率は低いが、市場シェアが高い事業。成熟した市場で競争も比較的穏やかであり、安定した収益を生み出す事業です。ここから得られる利益は大きく、新たな事業への投資資金となります。維持的なマーケティング戦略が中心となります。
- 問題児(Question Marks)
- 市場成長率は高いが、市場シェアが低い事業。今後成長が見込まれる市場であるため、投資によって「花形」に成長する可能性もあれば、投資してもシェアを獲得できずに終わるリスクもあります。慎重な見極めと、集中的なマーケティング投資判断が求められます。
- 負け犬(Dogs)
- 市場成長率が低く、市場シェアも低い事業。収益性が低く、将来的な成長も見込みにくいため、早期撤退や事業縮小を検討する必要があります。マーケティング投資は最小限に抑えられます。
PPM分析を行うことで、自社の事業ポートフォリオ全体のバランスを把握し、経営資源をどの事業に優先的に配分すべきか、あるいはどの事業から撤退すべきかといった経営判断や、それに紐づくマーケティング戦略の方向性を検討するのに役立ちます。限られた経営資源を最大限に活用するために、どの事業に注力すべきかを客観的に判断するのに有用です。
VRIO分析

VRIO分析は、自社の内部資源(リソースや能力)を評価し、持続的な競争優位の源泉となる強みを見つけ出すためのフレームワークです。戦略経営の第一人者 ジェイ・B・バーニー氏によって提唱されました。環境分析やSWOT分析の内部環境分析をさらに深掘りする際に役立ちます。以下の4つの要素で資源を評価します。
- Value(経済的な価値):その資源は、市場機会を捉えたり、外部からの脅威を回避したりする上で経済的な価値があるか? 顧客ニーズを満たす価値を創造できているか?
- Rarity(希少性):その資源は、競合他社が容易に保有できない、希少なものであるか? 誰でも手に入れられる資源では、競争優位にはつながりません。
- Imitability(模倣難易度):その資源は、競合他社が容易に模倣できないものであるか? たとえ価値があり希少であっても、簡単に模倣されてしまうと競争優位は一時的なものになってしまいます。
- Organization(組織):その資源を最大限に活かすための組織体制や仕組みが整っているか? 優れた資源があっても、それを活用できる組織的な能力や体制がなければ、宝の持ち腐れになってしまいます。
VRIO分析を通じて、自社の資源がこれら4つの基準をどの程度満たしているかを評価することで、「持続的な競争優位の源泉」となり得る独自の強みを見つけ出すことができます。たとえば、特定の技術、強力なブランド、独自の顧客データベース、優れた企業文化などが該当する可能性があります。この分析結果は、自社の強みを活かしたポジショニングや、重点的に投資すべき領域を特定する際に役立ちます。
バリューチェーン分析

バリューチェーン分析は、ハーバード大学のマイケル・ポーター氏が提唱したフレームワークで、企業が行う事業活動を、製品やサービスが顧客に届くまでのプロセスごとに分解し、それぞれの活動がどのように価値を生み出しているか(付加価値)を分析するものです。企業の活動を「主活動」(購買物流、製造、出荷物流、販売・マーケティング、サービス)と「支援活動」(全般管理、人事労務管理、技術開発、調達活動)に分け、それぞれの活動におけるコスト構造、効率性、競合との違いなどを分析します。
この分析を行うことで、どの活動が付加価値を大きく高めているのか、あるいはどの活動に無駄や非効率があるのかを特定できます。特に、販売・マーケティング活動がバリューチェーン全体のどの部分に位置し、他の活動とどのように連携し、どのように全体の価値創造に貢献しているかを理解することで、マーケティング戦略の役割や重要性をより明確にすることができます。また、競合他社のバリューチェーンとくらべることで、自社の競争優位性(例:製造コストが低い、サービス品質が高いなど)や改善点を特定するのにも役立ちます。バリューチェーンのどこかで優位性を築くことができれば、それが競争力につながります。
ファイブフォース分析

ファイブフォース(5F)分析は、同じくマイケル・ポーター氏が提唱した、業界の競争要因を分析するためのフレームワークです。業界内の競争の激しさや、その業界の構造的な収益性(魅力度)を評価するために使用されます。以下の5つの要因から、業界の競争環境を分析します。
- 新規参入者の脅威
- 新たな企業がその業界に参入しやすいかどうか。参入障壁が低い業界は競争が激しくなりやすく、既存企業の収益性は圧迫される可能性があります。
- 売り手の交渉力
- サプライヤー(供給者)の交渉力は強いか? 特定のサプライヤーへの依存度が高い場合や、代替となる供給元が少ない場合、売り手の交渉力は強まり、自社のコストが増加する可能性があります。
- 買い手の交渉力
- 顧客(買い手)の交渉力は強いか? 顧客の数が少ない、購入量が大きい、製品の差別化が難しいといった場合、買い手の交渉力は強まり、価格競争に陥りやすくなります。
- 代替品の脅威
- 自社の製品やサービスに代わる、異なる業界からの代替品が存在するか? 代替品が安価であったり、性能が高かったりする場合、顧客がそちらに流れてしまい、自社の製品の魅力度は低下します。
- 業界内の競争
- 業界内の既存企業の数、規模、力関係、競争の性質(価格競争か、差別化競争かなど)は? 競合が多数存在し、製品の差別化が難しく、市場の成長率が低い業界は、既存企業間の競争が激しくなりやすい傾向があります。
ファイブフォース分析を行うことで、自社が属する業界の競争環境の厳しさや、収益性を圧迫する要因を理解できます。この分析結果は、自社がどのような戦略をとるべきか、どのような競争戦略で臨むべきかを検討する際の重要な重要な示唆(インサイト)となります。たとえば、買い手の交渉力が強い業界であれば、価格以外の要素での差別化を図ったり、顧客ロイヤルティを高める戦略が重要になるかもしれません。業界の構造的な課題を理解することで、そこで成功するための戦略を立てることができます。
これらのフレームワークは、それぞれ異なる視点から現状分析や戦略立案をサポートしてくれます。単一のフレームワークに固執するのではなく、戦略立案の目的やフェーズに応じて、複数のフレームワークを組み合わせて活用することが、より多角的で精緻な分析、そして実効性の高いマーケティング戦略の策定につながります。フレームワークはあくまでツールであり、重要なのはそこから得られた示唆をどのように解釈し、自社の状況にあわせて戦略に落とし込むかです。これらのフレームワークを使いこなすことで、より深く市場や顧客、そして自社自身を理解し、成功につながるマーケティング戦略を描くことができるでしょう。
マーケティング戦略の事例
ここでは、当社が支援した企業のマーケティング戦略事例を3つご紹介します。
ヤマハ発動機株式会社の事例
ヤマハ発動機株式会社(以下、ヤマハ発動機)は「感動創造企業」を企業目的に掲げ、個人や法人、官公庁・自治体の幅広いお客さまに向けてランドモビリティ事業、マリン事業、ロボティクス事業などを提供しています。
本社や関連施設は静岡県磐田市にありますが、2024年6月6日(木)横浜みなとみらいに新しいショールーム「Yamaha E-Ride Base(ヤマハ イーライド ベース)」(以下、E-Ride Base)をオープンし、当社はE-Ride Baseのコミュニケーション戦略策定や関連施策についてご支援しました。
ヤマハ発動機株式会社のSNS統合コンサルティング(SNSコンサルティング)、SNS広告出稿・運用のご支援について紹介します。
オリオンビール株式会社の事例
オリオンビール株式会社は、沖縄を中心に国内全域で展開する酒類清涼飲料メーカーです。2024年に主力商品である『オリオン ザ・ドラフト』を大幅にリニューアルし、よりスッキリと飲みやすいうまさを追求しています。
この度、当社のコーポレートサイトにお問い合わせをいただき、沖縄県外におけるオリオンビールの想起率の向上、および購買促進のためのマーケティング戦略策定とプロモーションをご支援しました。
オリオンビール株式会社の「マーケティングの “こんなはずじゃなかった!” 撲滅コンサルティング」・マーケティング戦略立案・マーケティングリサーチ支援についてご紹介します。
これらの事例からもわかるように、マーケティング戦略は企業の置かれた状況や目指す目標によってさまざまです。重要なのは、自社の強みや弱み、市場環境、そしてターゲット顧客を深く理解し、その上で明確な戦略を立て、戦略に基づいた最適な施策を実行することです。そして、実行した施策の効果を測定し、常に改善を続けることが、マーケティング戦略を成功に導き、売上増加や企業の持続的な成長を実現する鍵となります。
まとめ
本記事では、企業のマーケティング担当者のみなさまに向けて、マーケティング戦略の定義や具体的な立て方、そして各ステップで役立つフレームワークの使い方、さらには多岐にわたるマーケティング施策の種類までを網羅的に解説しました。
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