アース製薬と森永乳業が実践する「ソーシャライズ思考のプロモーション」とは
2022年4月20日〜21日、オンラインイベント「ソーシャライズサミット2022 真っ先に選ばれるブランドになるための新常識」を開催しました。
情報爆発の時代において、真っ先に選ばれるブランドとなるために有効なのが、マーケティングコミュニケーションの 「ソーシャライズ」 です。
ソーシャルメディアに代表されるように、人と人、興味と興味がつながり、あらゆる垣根を超えた発信や共有が当たり前となったいま、企業は消費者とどのようにコミュニケーションしていくべきなのでしょうか。
トークセッション「ソーシャル時代におけるプロモーションの新しい常識」では、アース製薬株式会社の稲積大輔さん、森永乳業株式会社の山西啓代さん、トライバルメディアハウス(以下、トライバル)の久保雄亮がディスカッション。
プロモーションで成果を出すための戦略やコンテンツの新しい常識について議論しました。
登壇者
アース製薬株式会社 マーケティング総合企画本部 コンシューマーマーケティング部 マーケティングコミュニケーション課 課長 稲積 大輔さん
森永乳業株式会社 マーケティングコミュニケーション部 マネージャー 山西 啓代さん
株式会社トライバルメディアハウス マーケティングデザイン事業本部 マーケティングソーシャライズ部 部長 チーフコミュニケーションプランナー 久保 雄亮
企業視点の広告は「時代遅れ」。ソーシャルメディアを意識したプロモーションに注力
スマートフォンが世に出て10年以上が経過した現在、家庭から「お茶の間」という存在が消えつつあるーー。そう語るのは、アース製薬の稲積さんです。
2016年に同社へ入社して以来、デジタルプロモーションを中心にさまざまな施策を担当し、最近では『バブルーン』に関するユーザーの投稿がTikTokで1億2000万回再生され、好評を博しました。
稲積「私の家族は最近、同じリビングに集まりながら各自のスマートフォンを眺め、別のコンテンツを見ている時間が圧倒的に多いと感じます。この流れは日本全体で起こっている。つまり、お茶の間で家族全員が同じテレビ番組を見る時代ではなくなった、と言えます。
世代ごとに興味のあるコンテンツが異なりますから、広告を作る際も、その世代に合わせたメッセージを打ち出していきます。そうしないと、ターゲットとの接触機会を失いかねません」
森永乳業の山西さんも、“広く告げる広告” から、“広がるよう告げる広告” づくりへシフトする必要性を感じています。
山西さんが最近手がけた主な施策は、発売30周年を迎える「マウントレーニア 深い癒やしプロジェクト」。コロナ禍における人々のストレスを、商品の味だけでなくパッケージや広告を用いて癒やしていこうという意味が込められています。
山西「『癒やし』といえばかわいい動物、ということで、コロナ禍で来場者数が減少していた全国の動物園に声をかけ、飼育員が撮影した動物の写真をパッケージや広告で打ち出しました。『コロナが落ち着いたらぜひ彼らに会いに足を運んでくださいね』という意図を込め、さらには売上の一部を動物たちの飼料代として寄付する仕組みを取り入れました」
山西さんはこの他に、2022年2月22日「スーパー猫の日」にちなんだX(旧Twitter)施策にも挑戦。人気商品『パルム』のアカウントが猫語のみでツイートするなどの施策がバズを呼び、テレビの情報番組でも紹介されました。
山西「情報量が爆発的に増え、メディアが多様化したこの時代、まずは『企業側から一方的に発信するメッセージは、受け取ってもらえない』という前提に立った方がいいと考えています。実際に、かなりの工数と資金を投入したテレビCMや大掛かりなキャンペーンが、無風に終わったケースも少なくありません」
もはや企業が「面白いでしょう?」と発信するコンテンツは時代遅れになりつつあり、受け取った側が主体的に面白がって、自ら拡散していくような仕掛けを作っていく時代が到来しています。トライバルの久保も、視聴者との相互エンゲージメントが重要な時代になっている、と語りました。
久保「膨大な情報の波に飲み込まれていってしまうコンテンツを、いかに多くの人の目に留まらせ、反響を呼び起こせるかが重要です。視聴者のリアクションを獲得し、会話のネタとして広げてもらって記憶に残していく。私たちはそのための仕掛けを考える必要があります」
プロモーション設計で意識すべき「“受け手発想”へのシフト」
どのような点に留意すれば、反響を呼び拡散されるコンテンツを制作できるのでしょうか。山西さんは「いかにして “出し手発想” から ”受け手発想” にシフトできるか」だと提言します。
山西「生活者と商品との合意点を探し、生活者が普段興味を持っている事柄のなかにコミュニケーションをどう落とし込むかが重要です。量よりも質で勝負。一回のコミュニケーションでいかに目を引き、商品を検索していただいたり、もっと見たいと思っていただいたりするところまで持っていけるかが肝です」
一方の稲積さんは、メディアを絞らずに、できる限りタッチポイントを多く作ることが重要だと言います。
稲積「アース製薬の商品プロモーションは、主に30〜40代主婦の方に向けて作られますが、10歳の違いでも頻繁に目にするプラットフォームは異なります。ならば、メディアを決め打ちするのではなく、できるだけ多くの人の目に触れるようプラットフォームを増やし、その特性に合わせたコンテンツを作っていく必要があります」
また稲積さんは、山西さんの手がけた「スーパー猫の日」施策のように、ひとつのプラットフォーム上で話題になり、別のメディアにも届くことは非常に意味のあることだ、とも。さらに久保は、テレビ番組のスタッフがXなどからネタを探している現状が散見される、と付け加えたうえで、企業のマーケティング担当者が “受け手発想” にシフトするポイントを語りました。
久保「各ソーシャルメディアのコンテンツを自身が体験し、生活者とメディアが重なるベン図を探しに行く必要もあると思います。ソーシャルリスニングを通して、生活者がどんなことに対してリアクションを起こすのかを拾い、そこにハマるブランドメッセージを乗せていくのがポイントになるのではないでしょうか」
第一想起や認知獲得、話題量などをKPIとして施策を進行
両社はどのようなKGIとKPIを設定しているのでしょうか。稲積さん・山西さんともに「自身の部署では、プロモーションやコミュニケーションのKPIを立てている」と話します。
稲積「売上やシェア率といったKGIに関しては、ブランドマネージャーが設計しています。我々が担うのは、第一想起や助成認知の獲得といったプロモーション部分でのKPIです。ただ、これまでのSNS施策においてもっとも売上につながったのは『バブルーン』の施策でしたね」
『バブルーン』の施策では、「自分も商品を使用してみたい」と思わせるような動画作りに成功し、生活者が実際に使用した動画や画像をSNSに次々と上げたことで大ヒット。その結果欠品が相次ぎ、なかなか手に入らないレア感も出て、さらに話題化されたそう。
一方、ソーシャルメディアでの話題量をKPIとして立てているという山西さんは、次のように話します。
山西「弊社では、施策ごとにどれだけ話題になったかを年単位で測っています。売上に関しては、コミュニケーションと販売がなかなか連動しないこともあり、正直難しいところではあります。
しかし、コロナ禍の動物たちを広告に起用した『マウントレーニア』に関しては、『応援消費』といった点で購買に繋がったようです。広告をはじめとしたコミュニケーション施策を好きだと感じてもらうことと、店頭で買いたい、食べたいと思ってもらうことは必ずしも結びつくものではないので、施策自体が店頭としっかり接着できた好事例だと捉えています」
成功事例がまだ少ないからこそ、ソーシャライズの知見を蓄えていく
いまだ影響力のあるマス広告と合わせ、ソーシャルメディアで反響を呼ぶための施策も求められていますが、今後具体的にどういったコミュニケーションが重要になるのでしょうか。
稲積「メディアが多様化するなかでも、テレビのパワーに勝てるものはまだないでしょう。しかしながら、テレビを見ているのはどの層なのかをしっかり認識するべきだと考えています。冒頭でもお話しましたが、世代によって見ているコンテンツが大きく乖離していますから、今後のコミュニケーションはより細分化されていくでしょう」
同様に、より広い認知とリーチを獲得できるテレビを今後も有効活用するべきだ、と語る山西さん。そのうえで、他のプラットフォームとの棲み分けが重要だと指摘します。
山西「テレビCMは基本的に、視聴者に邪魔だと思われてもスキップはされません。しかし、ウェブ広告は基本的にはスキップされるもの。その前提で、SNSも含めそれぞれに別の広告を打つ工夫は欠かせません。
それを実行するために、最近はガチガチのオリエンを重ねるのではなく、アジャイル型で協力会社とワンチームで意見を出し合い、広告内容を決めていくことが増えました。今後も臨機応変な対応が求められると感じます」
プラットフォームが細分化した現状において、IMC設計の難易度は格段に上がっています。そのうえで必要なことは、各プラットフォームの仕様やアルゴリズムを把握し、かつ生活者の動向を理解したうえで、どのようなブランド戦略を乗せていくかを検討することだと、久保は言います。
久保「まだ成功事例が多くないソーシャル時代のプロモーションにおいて、まずはトライすることが大事です。早期に知見を蓄えた者が最終的に勝ち残り、今後ソーシャル全体の勢いを作っていくのではないでしょうか」
議論のまとめ
- 世代ごとにメディア接触が異なるため、マスとソーシャルを組み合わせながらコミュニケーションを細分化していく
- “出し手発想” から ”受け手発想” にシフトした広告作りが重要
- プロモーションやコミュニケーションのKPIには第一想起や認知獲得、話題量などを立て、そのための施策を設計
- ソーシャルメディアでの成功事例はまだ少ない。積極的に取り組んでソーシャライズの知見を蓄えよう