売上150%増! 熱狂的なファンダムを感動させるのは「愛とリスペクトがあるコンテンツ」
2022年4月20日〜21日、オンラインイベント「ソーシャライズサミット2022 真っ先に選ばれるブランドになるための新常識」を開催しました。
情報爆発の時代において、真っ先に選ばれるブランドとなるために有効なのが、マーケティングコミュニケーションの 「ソーシャライズ」 です。
ソーシャルメディアに代表されるように、人と人、興味と興味がつながり、あらゆる垣根を超えた発信や共有が当たり前となったいま、企業は消費者とどのようにコミュニケーションしていくべきなのでしょうか。
トークセッション「想起獲得の新しい選択肢 “ファンダムアプローチ” の有効性と可能性」では、著名人やエンターテインメント作品などに熱狂する人々にアプローチする「ファンダムマーケティング」の実践について、コーセーコスメポート株式会社の吉川優さんと、トライバルメディアハウス(以下、トライバル)の高野修平が対談。
ファンダムを起点とした新しいアプローチの有効性と可能性について議論しました。
登壇者
コーセーコスメポート株式会社 ブランド事業部 ブランド企画一課 デジタルプロモーション課 吉川 優さん
株式会社トライバルメディアハウス Modern Age/モダンエイジ事業本部 事業本部長 レーベルヘッド 高野 修平
ファンの「可処分精神」と商品を接続する「ファンダムマーケティング」
ファンダムマーケティングとは、企業やブランドが選ばれるために、ファンダムからの共感を得ながらブランドの好意度や購入意向を高めるマーケティング手法のことーー。トライバルの高野は、トークセッションの冒頭でこう説明しました。
膨大な情報に取り巻かれている現在の社会では、消費者に最も早く想起されることが企業やブランドにとって特に重要です。この「第一想起」を獲得した企業やブランドが、最も多く購入を検討され、購入に至る確率を高められるからです。
高野は、この第一想起を獲得するうえで、ファンダムマーケティングが有効であると訴えます。
高野「ファンダムマーケティングの有効性はどこにあるのでしょうか。キーワードは『可処分精神』です。可処分精神とは、SHOWROOM代表の前田裕二氏による造語で、私は『つい、そのことばかり考えてしまうもの』『人生において、かけがえのない、生きる活力となるもの』と考えています。
一般的に、マーケティングの対象は可処分時間や可処分所得とされていますが、これらは可処分精神に基づいて費やされるとも考えられます。その意味では、可処分精神を獲得することがマーケティングの最終目的地と言えます。可処分精神と紐づいた企業やブランドは、消費者に思い浮かべられやすく、第一想起を獲得し続けることが可能です」
しかし高野は、企業やブランド単体での可処分精神の獲得はかなり難しい、と注意を促します。ごく一部の熱狂的なファンを有するブランドを除けば、ブランドそのもので消費者を魅力し続けるのは困難です。そのため、企業は何らかの手段で、ブランドと可処分精神を接続しなければなりません。このとき、ファンダムマーケティングが大きな力を発揮します。
高野「音楽やアニメ、漫画、小説、スポーツなどの分野は、ファンの可処分精神で成り立っています。この可処分精神を多大に抱えたファンたちと商品を接続できるのがファンダムマーケティングという手法です。エンターテインメントの熱狂的なファンがいる『ファンダム』にアプローチすることで、商品単体では難しい可処分精神の獲得が可能になります」
さらに高野は「今後モノやサービスを売るうえで、音楽やアニメなどのエンターテインメントは重要な役割を果たすと考えています」と続け、ファンダムマーケティングのポテンシャルの高さを強調しました。
「声優ファンダム」にアプローチして成功したコーセーコスメポート
ファンダムにみなぎる可処分精神と接続し、ブランドを訴求するファンダムマーケティング。具体的にどのように行われるのでしょうか。登壇者のコーセーコスメポートの吉川さんは、ファンダムマーケティングを実践し、大きな成果を得た一人です。
吉川さんはヘアケア・スキンケアブランドのマーケティングを担当。2020年3月に発売されたヘアケア商品『ジュレーム リラックス』のプロモーションに、ファンダムマーケティングを活用しました。
吉川「発売から約10年が経過し、若年層との接点創出が課題となっていた『ジュレーム リラックス』をプロモーションするため、声優のファンダムに着目。下野紘さん・梶裕貴さんという、人気が高くて仲もいい2名『しもかじ』を起用して『ジュレーム リラックス』の音声コンテンツを複数制作しました。そしてドラッグストアのチェーンごとに違った音声を流すキャンペーンを実施したのです」
その結果、声優のファンダムから大きな支持を獲得し、「しもかじ」ファンの若年層がドラッグストアに詰めかけることに。某ドラッグストアのPOSデータでは、前月比で売上が約150%増、アイテムによっては約400%増を達成した商品までありました。この成果に、吉川さんはこれまでにない反響を感じたといいます。
吉川「従来のようなマス広告では獲得できない層に対して、プロモーションが届いている実感がありました。実際に、ソーシャルメディアでの発話数は日に日に伸びていきましたし、これまでなかなか接点を持つことができなかった10代、20代のお客様にも『ジュレーム リラックス』を認知していただけました」
高野「この施策を実施する前に比べ、実施後はX(旧Twitter)でのポスト数が約4倍に増加し、『さっそくドラッグストアへ買いに行きます!』という内容や購入したことが分かる商品画像が多く見られました。さらにそのツイートを見たファンダムもこの施策に注目し、多くの態度変容や行動変容につながったと考えられますね」
売上の大幅な伸長に、社内はもちろん、卸売を担う代理店からも多数の感謝の声が寄せられました。吉川さんはこの事例を通じ、ファンダムマーケティングの有効性を確信したといいます。
ファンダムマーケティングの必須条件は「愛とリスペクト」
続いて、『ジュレーム リラックス』のファンダムマーケティングの成功要因について、吉川さんと高野が議論を交わしました。
吉川さんが成功要因として挙げたのは、商品のコンセプトがファンダムの文脈にマッチしていたこと。
吉川「女性のヘアケアの悩みに寄り添い、癒しを提供する『ジュレーム リラックス』のコンセプトは、美声でファンダムに至福の時間を届ける『しもかじ』の魅力に重なる部分があります。両者が一定の親和性を有し、違和感がない形で商品とファンダムを接続できたことが成功の要因ではないでしょうか」
高野「ファンダムマーケティングにおいては、ファンダムへの配慮が何よりも大切です。強力な可処分精神を有しているファンダムは、一転してクレーマーに変貌するリスクもあります。
もともとファンダムが持っている文脈を大切にして、ファンダムの皆さんが喜ぶコンテンツを作ることが、成功への近道といえるかもしれません」
このように、一方通行的な「広告」ではなく、ファンダムと文脈を共有する「コンテンツ」を作ることが重要だとしました。
さらに、高野は「愛の無さは必ずファンダムに見抜かれます」と述べ、コラボレーションするアーティストやアイドルへの「愛とリスペクト」が必須条件だと指摘。『ジュレーム リラックス』の成功は、「しもかじ」への愛とリスペクトがファンダムに認められ、受け入れられた結果ではないかと話しました。
ファンダムマーケティングの第一歩は、社内の「オタク」を見つけること
ファンダムマーケティングを実践する際には「どのファンダムとコラボレーションするか」が重要なポイントです。企業やブランドはどのようなファンダムと接続するべきなのでしょうか。
高野は、声優やブレイク前のアーティストなど、ニッチな存在ではあるがファンダムの熱量が多い方々がファンダムマーケティングに最適だと説きます。
高野「声優やブレイク前のアーティストは、ファンダムの熱量が多い一方で、著名なアーティストやアイドルなどに比べてコストを抑えながら、コラボレーションの効果を得やすい利点があります。
ファンダムマーケティングは業界や商材を問いません。ファンダムの文脈と商品を適切に接続できれば、ファンダムマーケティングはあらゆる業界や商材で効果を発揮するはずです。ただし、そこにはファンダムへの『愛とリスペクト』が必要不可欠であり、ファンダムを無視したコラボレーションは単なる『タイアップ』となってしまいます」
ファンダムに溢れる可処分精神、そして第一想起の獲得を狙うファンダムマーケティング。その成功には、社内人材の活用が有効です。コーセーコスメポートの事例においても、チームに声優ファンダムのメンバーが参加していたといいます。
ファンダムに受け入れられるプロモーションを展開するうえで、そのファンダムに属する人物からのアドバイスは最も有効といえるでしょう。ファンダムマーケティングの第一歩、それは社内のメンバーの趣味趣向をリサーチし、自社にどんな「オタク」や「マニア」がいるのかを知ることから始まるようです。
議論のまとめ
- ファンダムマーケティングとは、熱狂的なファン層にアプローチし「可処分精神」を獲得するマーケティング手法
- コーセーコスメポートはファンダムマーケティングを実践し、大きな成果を得た
- ファンダムマーケティングにはコラボレーション先への「愛とリスペクト」が必要不可欠
- まずは社内人材が属するファンダムを探してみては?