「クチコミ」を大解剖! 発信されるまでの仕組みや影響力、各社が意識すべきこととは?
昨今、企業のマーケティングコミュニケーションにおいてユーザーによるクチコミが重視されています。
企業やブランドに関するクチコミ内容をコミュニケーション設計に活かしたり、プロモーションによってクチコミが増加し商品やサービスの売上が増えたりして、その影響を実感している方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は「クチコミ」をテーマに掲げ、企業やブランドの商品・サービスを知ってから購入するまで、さらには購入したあとにクチコミがどのように影響しているのかを紐解いてみましょう。ソーシャルメディアマーケティングの域を超え、「真実の瞬間」という概念を軸にクチコミの影響について深く考えてみたいと思います。
改めて注目したい5つの「真実の瞬間」
ご存じの方も多いかと思いますが、まずは軸となる「真実の瞬間」についてお伝えします。「真実の瞬間(Moments of Truth 、MOT)」とは、スカンジナビア航空の元CEO ヤン・カールソン氏が提唱した、顧客が商品やサービスの印象を決める、評価をする瞬間のことです。
ここで、このテーマについて書かれた書籍『真実の瞬間―SAS(スカンジナビア航空)のサービス戦略はなぜ成功したか』(ダイヤモンド社)の一部を引用してご紹介します。
顧客にスカンジナビア航空についての感想を求めた場合、はたして彼らは航空機とか営業所の建物、あるいは資本運営のことなどについて語るだろうか。旅客はきっと、スカンジナビア航空の従業員が自分たちにどう接したかという点を取り上げるはずだ。スカンジナビア航空を形成しているのは旅客機とかの有形資産の集積だけではない。もっと重要なのは、顧客に直接接する最前線の従業員が提供するサービスの質だ。
1986年、1000万人の旅客が、それぞれほぼ5人のスカンジナビア航空の従業員に接した。1回の応接時間が、平均15秒だった。したがって、1回15秒で、1年間に5000万回、顧客の脳裏にスカンジナビア航空の印象が刻みつけられたことになる。その5000万回の “真実の瞬間” が、結局スカンジナビア航空の成功を左右する。その瞬間こそ私たちが、スカンジナビア航空が最良の選択だったと顧客に納得させなければならないときなのだ。
真実の瞬間について語られた本書が出版されたのは1990年、いまからおよそ30年も前のこと。当時の日本はポケベルが普及していた頃で、それからインターネットやスマートフォン、ソーシャルメディアなどが普及、発展し、商品やサービスを知る・見る・触れる機会が大きく変わりました。
また、GoogleやP&Gはそれぞれ「消費者が商品やサービスを評価する瞬間」について以下を提唱したと言われています。
・ZMOT(Zero Moment of Truth)
Googleが2011年に提唱した購買行動モデルの一つで、検索によって商品やサービスを評価する瞬間のこと(Zero Moment of Truth (ZMOT) – Think with Google)。ZMOTはGoogleやYahoo! 、ソーシャルメディアなどで目的的に検索したときに評価する瞬間を指します。
・FMOT(First Moments of Truth)
ZMOTよりさらに前、2004年にP&Gの方が提唱したと言われているのがFMOT。店頭をはじめ、商品やサービスを初めて体験するときに評価する瞬間のことです。
・SMOT(Second Moments of Truth)
こちらもP&Gの方が提唱したと言われており、商品やサービスを購入した後、一次体験によって評価する瞬間を指します。
・TMOT(Third Moments of Truth)
TMOTは商品を買い続けたり、サービスを利用し続けたりすることでブランド体験を重ね、その度に商品やサービスを評価する瞬間を指します。FMOTやSMOTと同様に、P&Gの方が提唱したとされています。
これらに加え、ソーシャルメディアの利用が一般的になった現代ではZMOTへの解釈を深めることができ、ZMOTはさらに2種類に分けられると考えています。
前述の通り、ZMOTは「GoogleやYahoo! 、ソーシャルメディアなどで目的的に検索をしたときに評価する瞬間」とご説明しましたが、特にSNSは暇つぶしに利用されることがあるように、なんとなく空いた時間にInstagramやX(旧Twitter)を開き、友人や知人、趣味に関する投稿を眺めることもあります。
その、SNSをなんとなく利用している時に目にする企業アカウントの投稿や広告、プロモーション、友人や知人の投稿によって、商品やサービスを評価する瞬間もあるのではないか、という考え方です。つまり、Googleが提唱したものは「能動的ZMOT」である一方、もう一つのZMOTは「受動的ZMOT」であり、真実の瞬間は実質5つあると言えるのではないでしょうか。
以下の図は、消費者による商品・サービスに対する意識や行動と、5つの真実の瞬間をまとめたものです。商品やサービスに対する意識・行動のタイミングで、どの5つの真実の瞬間が訪れているのかをご確認ください。
真実の瞬間で発信されるクチコミに違いがある? クチコミの種類とは
ソーシャルメディア利用によってZMOTが2種類あると考えられるように、ソーシャルメディアをはじめとしたプラットフォームやデジタルデバイスが変化することで真実の瞬間に起きていることも変わり続けています。それは、どの瞬間においてもクチコミを発信することができるようになったこと。さらには、そのクチコミは多くの人の目に触れる可能性があり、データとして残るようになったということです。
街中に掲げられた印象的な広告を見て「あのブランドの広告がすごい」とツイートすることもあれば、話題の観光地やアクティビティをGoogleやYahoo! 、Instagramなどで調べ、その検索結果を見て「気になる」「ここに行ってみたい」などと発信することもあるでしょう。
商品を体験しにお店に行き、そこでの体験を投稿する人もいれば、購入後クチコミサイトで「イマイチだった」と投稿することも、毎日体験することで「やっぱり買って良かった」と発信することもあります。クチコミは、5つの瞬間で日々発信されているのです。
そして、5つの瞬間に発信されるクチコミにも種類があります。受動的ZMOTではソーシャルメディアの投稿や広告によって「良さそう」「面白そう」といった「興味のクチコミ」が、能動的ZMOTと購入前の店舗やオンラインでの評価を指すFMOTでは「良い」「買いたい」などの「期待・意向のクチコミ」が投稿されます。
さらに、購入後の一次体験による評価を指したSMOTでは「買った」「行った」などの「報告のクチコミ」や「想像以上に使いやすかった」「景色がすごくきれいだった」などの「評価のクチコミ」もあります。継続的な購入・利用による評価を指すTMOTでは、「何度使っても良い!」などの「評価のクチコミ」や「悩んでいる人におすすめしたい」などといった「推奨のクチコミ」などが投稿されます。
クチコミと言っても、5つの真実の瞬間でさまざまなクチコミが発信されていると分かります。以下は、先ほどの画像にそれぞれのクチコミの種類を加えたものです。
クチコミは受信者にどのような影響を与えるのか
ここまで、商品やサービスを評価する5つの瞬間と、それぞれでどのようなクチコミが発信されるかという内容を発信する側の視点でお伝えしました。
ソーシャルメディアの普及にともない、クチコミがデータとして残りやすくなったことによって、さまざまな真実の瞬間を経て発信されたクチコミが誰かを動かしたり、商品やサービスの評価に影響を与えたりしています。
ソーシャル時代のマーケティングは「いかにクチコミを増やすか」が本質ではありません。クチコミが増えることによって、「クチコミを見た人にどのような影響を与えられるのか」までをも意識することが重要であり、それこそが本質です。
以下の画像は、クチコミを発信する側(発信者)と、それを受け取る側(受信者)に分け、どのクチコミがどのように影響するかを表したものです。
受信者は、5つの真実の瞬間で発信されたクチコミを
・広告やソーシャルメディアを眺めているとき
・Googleやソーシャルメディアで検索をしているとき
・店舗やオンラインで比較・検討するとき
に、見ることが多いです。
さらに、その方はそのクチコミによって商品やサービスの良し悪しを評価したり、購入するかどうかを決めることもあります。つまり、商品やサービスを購入・体験する前の(受動的ZMOTと能動的ZMOTの)段階で、商品やサービスの印象・評価を決めていると言い換えることができます。誰かが発信したクチコミが、クチコミを受信した他の誰かのZMOTにつながっているのです。
企業視点で言えば、自社商品やサービス、広告などのコミュニケーション施策などをきっかけにクチコミが発信され、そのクチコミを見た人が商品やサービスについて評価するという、クチコミを起点にした消費意識や行動、評価のサイクルがあるというのを念頭において各施策を考える必要があるということです。
企業が増やすべきクチコミは、商材やサービスによって異なる
クチコミが購入前の意識や検索行動、2つのZMOTに影響していると分かれば、自社に関するクチコミを増やしていくことでその影響力を強めることができます。
では、企業やブランドはどのようなクチコミを増やすべきなのでしょうか? それは、クチコミを受け取った側に興味を持ってもらい、比較・検討時に期待値を高め、買いたいという意向を持たせるような、購入を後押しする内容です。
購入を後押しするクチコミの種類は一般的に、SMOTで発信されるような「評価のクチコミ」やTMOTで発信されるような「推奨のクチコミ」です。ブランド体験を重ねたことの分かるクチコミのほうが受け手は信頼でき、購入や利用の後押しをするというのは想像に難くないでしょう。
ただし、増やすべきクチコミの種類は商材によって異なると考えられます。
非耐久消費財の場合
購入する機会が多く、価格が安い非耐久消費財は、購入後に「評価のクチコミ」や「推奨のクチコミ」を投稿する機会があまり多くないことから「興味のクチコミ」や「期待・意向のクチコミ」「報告のクチコミ」を(一時的にでも)増やすことで、その商品が話題であることが受け手に伝わります。その話題性によって、受動的ZMOTに影響し、購入を後押しすると考えられます。
耐久消費財や専門品の場合
価格が高い耐久消費財や専門品は、購入する機会が少ないため「報告のクチコミ」は多くなく、購入や利用の後押しをするクチコミは信頼性の高い「評価のクチコミ」や「推奨のクチコミ」と考えられます。
また、耐久消費財や専門品は購入まで長い検討期間を要することが多く、外部の情報源から検索をする外部探索時においても継続的探索がされやすい(日常的に調べられやすい)と言われています(※)。そのため「期待・意向のクチコミ」を増やし、「やっぱりかっこいいな」「いつか絶対買うんだ」と期待値を高めていくと、いつか買うチャンスが訪れたときに購入されやすくなると考えられます。
評価や推奨のクチコミを増やすか、期待や意向のクチコミを増やすかは(もしくは両方増やしていくかは)、マーケティングコミュニケーション施策としての優先度や注力するべきタイミングなどを考慮する必要があるため、他の施策とあわせて検討いただくのが望ましいでしょう。
※ 外部探索や継続的探索については、こちらの記事でご紹介しています。あわせてご覧ください。
その他サービスの場合
映画館や水族館などのサービスについては、購入・利用機会はそこまで多くない一方、何かきっかけがあればサービスを利用することも多いです。メディア掲載などをきっかけにして「興味のクチコミ」や「期待や意向のクチコミ」が増えると、受動的ZMOTや能動的ZMOTに影響があり、利用機会につながります。
また、時期や立地などによって利用できるサービスが限定されてしまうこともあり、事前検索などは行われやすいため、「評価のクチコミ」や「推奨のクチコミ」が利用を後押しすると考えられます。その他サービスは、購入前・後のクチコミをどちらも重視するといいでしょう。
以下の図では、商材ごとの特徴と、購入前・後のクチコミがどう影響するかをまとめました。文章とあわせてご覧ください。
クチコミを増やす方法と事例紹介
これまでの内容を踏まえて、企業はどのようにクチコミを増やしていけばいいのでしょうか。クチコミを増やしやすい場といえば、いまこの瞬間も膨大なクチコミが発信されているSNS(XやInstagramなど)です。
SNSを軸に、クチコミを増やしていくための手法を一部を「短期的に増やす方法」と「中長期的に増やす方法」に分けてご紹介します。
クチコミを短期的に増やす方法
・SNSでの話題化を狙ったマス広告
XやInstagramでクチコミ増を狙ったマス広告(交通広告や新聞、テレビCMなど)を指します。これらの広告施策は主に認知獲得や、興味を引くようなアテンションを獲得する目的で実施されることが多く、「すごい」「面白い」などの興味のクチコミが増えやすいと考えられます。
事例)いなば食品「ちゅ~る ちゅ~るトレイン」
『CIAOちゅ~る』発売10周年を記念した交通広告。撮影した写真とともに「かわいい」「私も乗りたい」などのクチコミが多く見られました。
https://ciao-churu.fun/10shunen/
・SNSでのキャンペーン施策
XやInstagramアカウントのフォローとハッシュタグ投稿によってプレゼントが当たるキャンペーンなどを指します。特に非耐久消費財では興味や期待、意向のクチコミを増やすことができます。
事例)日本コカ・コーラ『ジョージア』Xキャンペーン
『ジョージア ラテニスタ クリーミーラテ』の発売を記念し、ジョージアのXアカウント(@GEORGIA_JAPAN)はフォロー&リプライのキャンペーンを実施。参加者からは「どんな味か気になる、ぜひ飲んでみたい」や「家でのんびり飲みたい」などのクチコミがツイートされました。
https://twitter.com/GEORGIA_JAPAN/status/1376368518921355264
クチコミを中長期的に増やす方法
・SNSアカウントによるアクティブコミュニケーション
アクティブコミュニケーションとは、引用リツイートや自社のことに関するツイートに対してリアクション(リツイートやいいね、リプライなど)をするような、積極的にユーザーとコミュニケーションをとる施策のことです。
企業のことを好意的に感じているユーザーやファンであれば、リアクションをされると嬉しいと感じる方も多いため、アクティブコミュニケーション後に興味や期待、意向のクチコミを投稿してもらえる可能性があります。
事例)ネスプレッソ Xアカウント
ネスプレッソのXアカウント(@NespressoJP)は、商品に関するユーザーのツイートに対し、感謝のコメントなどを加えて引用リツイートをしています。ブランドのファンやユーザーへの感謝を直接伝えることで、運用効果が期待できるだけでなく、報告や評価、推奨のクチコミをフォロワーに発信することにもつながっています。
https://twitter.com/NespressoJP/status/1551055823786360833
・インフルエンサーによるSNS投稿施策
上記の広告施策やキャンペーンの一環としても実施される、インフルエンサーを起用した投稿施策。複数のインフルエンサーにSNSでの投稿を依頼すれば、インフルエンサーによる報告や評価、推奨のクチコミを増やすことができます。さらに、それを見たインフルエンサーのフォロワーは、受動的に商品やサービスを評価する(受動的ZMOT)場合があれば、さらに期待・意向のコメントやクチコミを発信することも考えられます。
事例)DINETTE『フィービービューティーアップ』
新商品『ビューティーアップマスカラ』について、複数のインフルエンサーがInstagramでタイアップ投稿を実施。「使った瞬間、これが私が求めてたマスカラ!」や「優秀」などのクチコミが発信され、投稿には「使ってみたい」などの商品に期待するような内容がコメントされていました。
https://www.instagram.com/p/Cgg2BvmrFAZ/
・ファンマーケティング、熱狂ブランドマーケティング
商品やサービスが好きで、継続的に利用しブランド体験を重ねているファンと商品開発やイベントを実施したり、コミュニケーションを継続的にとったりすることで、評価や推奨のクチコミを増やすことにつながります。
事例)ワークマン アンバサダー施策
ワークマンは、継続的に製品を使いソーシャルメディアで発信するユーザーを「捕獲作戦」と称してアンバサダーに起用し、一緒に製品を開発したり、アンバサダーの方々にイベントに参加いただいたりして、評価や推奨のクチコミを増やしています。施策の詳細はこちらの記事をご覧ください。
大きく2つに分けてご紹介した、クチコミを増やす方法。前述の通り、商材によって増やしやすいクチコミは異なり、さらには施策によって増やすことのできるクチコミは異なります。
また、施策を単体で実施するだけでなく、それぞれの施策を組み合わせて実施することでより中長期的にクチコミを増やすことができ、ターゲットの購入前の意識や検索行動、さらには2つのZMOTに影響しやすくなると考えられるため、自社の商材にあったクチコミと施策はどれか、どのように組み合わせられるかをぜひ考えてみてください。
この記事でお伝えしたいこと
ソーシャル時代と言えるいま、クチコミは、SNSでのキャンペーンやアカウント運用だけに重視されるテーマではありませんし、どのような内容のクチコミでも、とにかく増やせればいいという話でもありません。
・クチコミは消費者の意識や行動、商品・サービスの評価に影響を与えるということ
・商材ごとに増やすべきクチコミが異なること
・増やす方法は、SNSを中心に短期的・中長期的施策に分かれること
を知っていただき、興味や期待、意向、評価、推奨のクチコミのうち自社が増やすべきクチコミはどれか、どのような手法で増やしていくか(現行の施策で増やせているか)などを検討・確認いただきたいと思います。
XやInstagramのアカウント運用を担当している方は、日頃からフォロワー数やエンゲージメントに向き合いながら、企業への好意度や想起率向上を目指していることと思います。
本記事で解説したように、アカウントを運用するなかで増えていくクチコミが、消費者意識や行動、商品やサービスへの評価に影響を与えていることをご理解いただけると、より各施策を評価いただくきっかけになったり、新しい施策に取り組むきっかけになったりするのではないでしょうか。