ファンとのマーケティングを成功に導くための考え方と事例を徹底解説

近年多くの企業やブランドがファンマーケティングに関心を持ち、ファンに向けたさまざまな施策を実施しています。しかしその一方で、費用対効果や取り組みの成果が明確化しにくいために、予算獲得や施策の継続が難しいと悩む担当者も多いようです。

そんな悩みを解決し、ファンマーケティングを成功に導くためには、どうしたらよいのでしょうか?

2015年から熱狂ブランドマーケティングを推し進めてきたトライバルメディアハウスの髙橋(@ryo_tak)と、7年間の経験や実績をもとに「ファンマーケティングを失敗で終わらせないための考え方」をお伝えします。

ファンとのマーケティングを取り入れるべき時代的背景

そもそもなぜ今、ファンマーケティングが注目されるのでしょうか。その背景には、国内マーケットの変化があります。日本では技術力や製品力がどんどん高まり、商品のコモディティ化が促進されています。そしてこの先は、人口が長期的に減少していく時代です。顧客に選んでもらうための激しいブランド競争や価格競争が起こっています。

そうした状況下において、商品が値上げされていたとしても「好きなブランドや商品であれば」と購入する方々もいます。それがファンです。

競合商品より高くても買ったり、推奨することで新規購入が増えたり、それによって広告費用が削減できたり。そうした効果を生み出し、中長期的にみると利益率向上にもつながる。ブランド競争や価格競争などの背景から、今はファンを大切にするような考え方(ファンマーケティング)が注目されています

失敗する原因とは

ファンマーケティングはマーケティングの一手法と捉えられがちですが、私たちは自社ブランドに対してファンが持つ価値を見極め、それを各マーケティング施策にインストールしていく活動であり、考え方と捉えています。

髙橋「日頃マーケティング担当者から相談を受ける際、ファンマーケティングを『ファンに対するマーケティング』と考えている方が多い印象です。また『ファンマーケティング=コミュニティ』と捉えている方もいます。

ファンに対するマーケティング手法として狭義に捉えたり、施策の目的や狙い、成果を正しく社内に伝えられなかったりすると、継続することが厳しくなります」

実際にコミュニティ運営に取り組んでいると「メンバーは積極的にイベントに参加したり、投稿をしたりすることで喜んでもらえているけれど、マーケティング活動や事業のどんなところに成果が出ているか分からない」といった問題に直面することが多いです。

上記に陥ると、ファンより新規顧客に予算をかけたほうが売れる(費用対効果が高い)と思われ、ファンマーケティングはうまくいかない、失敗したと感じるのではないでしょうか。

この記事でお伝えしたいファンマーケティングの失敗とは、ファンマーケティングを狭義に捉え、取り組みによる成果を明確にできないことです。

そこで、ファンマーケティングをファンと一緒につくるマーケティングと広義に捉え、ファンマーケティングの成果をコミュニケーション施策に沿って測ることで、成功へと導くことができます。

ファンと一緒につくるマーケティング

ファンと一緒につくるマーケティングとは、ファンの資産をあらゆる施策に活かしていくことです。ファンの資産をマーケティングファネル左側の「商品開発」〜「再購入」までにどう活かしていくかが、ファンマーケティングの醍醐味と言えます。

ファンとのマーケティングのあるべき姿

ファンマーケティングを考えるときにまず押さえておきたいのは、ファンを資産としてとらえるために、その資産を具体化することです。ファンの資産は「知識」「行動」「スキル」「経験」「意向」などに大別されます。

これらをSNSやインフルエンサー施策などの各施策に活かしていくことが、ファンマーケティングのあるべき姿です。

ファンとのマーケティングのあるべき姿

ここからは5つの施策をピックアップし、ファンの資産をどのように活かしていくのかについてお伝えしていきます。また、施策ごとに世の中にある事例をいくつかご紹介します(※)。以下はあくまで一例で、他の施策に活かすこともできます。

  • オウンドメディア
  • PR
  • SNS
  • インフルエンサー施策
  • 顧客体験の設計(CX)
※トライバルメディアハウスが関わっている事例もあれば、そうでない事例もございます。あくまで弊社がご紹介したい事例としてピックアップしておりますので、ご了承いただけますと幸いです

オウンドメディアは「体験価値が伝わること」が要

まず、ファンマーケティングにおけるオウンドメディア施策から考えていきましょう。オウンドメディア施策の主な目的は、ユーザーの理解促進を促すことと、購入後の体験価値をわかりやすく伝えて購入意向を高めることです。

どの企業もオウンドメディアで商品の機能や特徴に関する情報を掲載していますが、時代的背景でも触れたように、多くの商品がコモディティ化するような状況では機能や特徴に関する情報では不十分であり、企業やブランドの差が分かりづらいと考えられます。そこでポイントとなるのがファンの「行動」や「経験」のコンテンツ化です。

商品の機能的価値だけでなく、買ったあとの体験や心情などが描かれたコンテンツを発信することによって、商品の比較・検討をするためにオウンドメディアへ訪れた方の買いたい気持ちを刺激することができます。

株式会社ほぼ日『ほぼ日手帳』

髙橋「体験価値を伝えるコンテンツの成功事例には、株式会社ほぼ日の『ほぼ日5年手帳』コンテンツが挙げられます。このコンテンツでは、手帳の使い方について多くのファンにインタビューをしていて、その使い方によってファンの暮らしが透けて見える点が非常に魅力的です。手帳をただのプロダクトとして捉えるのではなく、使用体験を提供している点が特徴ですね」

『ほぼ日5年手帳』のコンテンツは2019年時点のものですが、同社のオウンドメディアでは現在も「みんなの使い方」のページで紹介されています。幅広い使い方を知ることで「自分はこのように使えるかもしれない」「確かにこんなときに書いて、こういうときに見返したら面白そう」と手帳を購入した後の使用イメージが湧くことでしょう。

髙橋「ファンへのインタビューやファンからの発信をコンテンツ化し、購入後の体験価値を訴求をすることによって、新規顧客の購入意向を高めていく点が大切です。また、購入者に対する再購入意向や満足度の向上なども期待できます」

まとめると、ファンマーケティングをオウンドメディア施策に活かす際のポイントは以下のとおりです。

・購入意向を高める目的で、機能価値だけでなくファンの体験価値が伝わるコンテンツ(購入後の体験がイメージできる内容)を発信すること
・施策を継続的に実施できるように、コンテンツのKPIを定めて成果を明確にすること

また、コンテンツだけでなく、ファンの「行動」や「経験」が書かれたクチコミを掲載するのもおすすめです。クチコミに関する内容は別の記事「購入意向を高めるオウンドメディアの姿とは? すぐに試せる考え方と事例を解説します」でご紹介していますので、あわせてご覧ください。

PRは会社起点から「ファン起点」へ

続いて、PR(パブリックリレーションズ)にファンの資産を活かす方法について。PRは一見ファンから遠いように感じるかもしれませんが、近年はファンの力を活用している事例が多く見られます。

企業側がリリースを配信してメディアリレーションを行い、メディアに取り上げてもらうのではなく、ファンが「行動」したくなるような仕掛けを用意し、その活動が話題になり、メディアで報道される(結果的にPRにつながる)という構造的な変容が起きているのです。

ファン起点のPR

株式会社ヤッホーブルーイング

髙橋「ヤッホーブルーイングさんの『裏通りのドンダバダ』というクラフトビールが発売された際は特定の店舗で先行販売を行い、ドンダバダアカウント(@BARDONDABADA)でも発信し、ファンによるSNSでの発信を促しました。そしてそのUGC(User Generated Content)を公式コンテンツで紹介し、そのままメディアでも報道されるような流れを上手に作っています」

新商品を最も早く味わえる限定のBARをオープンしたり、発売段階ではX(旧Twitter)キャンペーンを実施したりなど、ファンの「行動」を促すような仕掛けが多く展開されました。ファンは「ようやく(商品を)見つけました!」などをXでツイートをして拡散し、ファンから話題を広げ、それをメディアが取り上げてさらに広げる、という理想的な流れを実現できていました。

PR施策にファンマーケティングを活かす場合は、以下の点に着目するとよいでしょう。

  • ファンが動きたくなるような仕掛けを作り、話題の起点とすること
  • 仕掛けにメディアが追いかけたくなるような新しさなどを設けること

SNSは「いかに良質なUGCを生むか」

次に取り上げたいのは、ファンマーケティング × SNSについてです。SNSでは、ファンが企業アカウントをフォローしているケースも多いことから、想像しやすいという方も多いのではないでしょうか。

SNSの中でもInstagramやXなどは、興味のある商品について情報収集をしたり、比較・検討をしたりする時にタグる(ハッシュタグやキーワードを検索する)ユーザーも多いです。ファンが投稿するUGCには、ファンの「知識」「行動」「スキル」「経験」「意向」が描かれていることから、その良質なUGCを増やすことでタグるユーザーのブランドに対する好意度・想起率・購入意向を高めることができます。

髙橋「ここではファンにUGCを投稿してもらう取り組みを行いますが、ファンにどう動いてほしいのかわからない場合も多いため注意が必要です。担当者が『ファンに何を発信してほしいのか』『どんなUGCを増やしたいのか』を明確にできていないことが原因だと思います。

予め『求めるUGC』を決めて、タグるユーザーが使うハッシュタグと増やしたいUGCの内容が合っているかも検証します。ファンがすぐに行動できるようなわかりやすさも備えていることが大切です」

株式会社土屋鞄製造所

革製品を扱う株式会社土屋鞄製造所のInstagramアカウントは、公式アカウント(@tsuchiya_kaban)とは別にUGCを紹介するアカウント(@tsuchiya.gallery)を用意し、ハッシュタグ「#私の土屋鞄日記」のついたUGCを紹介しています。ファンの方々が投稿したくなるようなハッシュタグを設計している上に、キャンペーンなども実施しながら、UGCを増やすための取り組みを行っています。

髙橋「土屋鞄製造所さんは『#私の土屋鞄日記』をつけて投稿されたUGCをオウンドメディアでも紹介していることから、ファンのUGCを複数の施策に活かしているという点も非常に上手いと思います」

また、ファンによるUGCを分析していくと、ファンの理解にもつながり、商品開発など多岐にわたって活用することができます。その点でもUGCは有用です。

SNS施策にファンマーケティングを活かすためには、以下の観点から施策を見直してはどうでしょうか。

・ファンに投稿してもらいたいUGCが、タグるユーザーのブランドに対する好意度や購入意向などを高めるようなものであること(影響力のある理想のUGCを定めること)
・ファンが継続して投稿したいと思うUGCであること
・他のファンがハッシュタグやその投稿を見たときに、投稿内容がすぐに理解できるかどうかを確認すること

インフルエンサーは「協働」がキモ

ファンマーケティングにおけるインフルエンサー施策についても考えていきます。この主な目的は、インフルエンサーの「好き」を発信する影響力によって、共通の興味・関心を持つフォロワーに効率よく情報を届け、意識や態度変容をさせることです。

起用するインフルエンサーを選ぶ際に気をつけたいのは、影響力の大きさをフォロワーの数だけに求めないことです。重要なのは、インフルエンサーがそのブランドを実際に好きで使っていて、体感を元に好意的なクチコミを発信しているのかどうか。そしてその発信によってユーザーの意識や態度変容が見られたのかだと、髙橋は言います。

髙橋「インフルエンサーの影響力は、フォロワー数などを指す『リーチ力』と、ブランドの好意的なクチコミ数を指す『ファン度』、さらには発信によってフォロワーの意識や態度が変わっているかどうかを指す『インフルエンス度』によって分解できると思います。リーチ力だけで選ぶインフルエンサーは、広がりは大きいものの深さはありません。インフルエンサーの『好き』という気持ちによるファン度やインフルエンス度を求めることで、より影響力を持つことができます」

インフルエンサーの影響力

株式会社ワークマン

株式会社ワークマンは製品が好きでSNSに継続的に発信するユーザーに直接会いに行き、声をかけ、話を聞くことをしていたそうです。

継続的につながることで、発信してもらうだけでなくファンの「経験」や「意向」を活かして商品を共同開発したり、自社商品に対してフィードバックをもらったりすることで露出以外の効果を得られます。そのための良質な関係を構築しているというのもポイントの一つとなるでしょう。

髙橋「ブランドに好意的なインフルエンサーとしっかりと連携して、インフルエンサーにさらにブランドを好きになってもらうような工夫まで行う点が重要です。歯車がうまく回ると、ブランド側が何も手を打たなくても好意的なインフルエンサーからUGCがどんどん投稿されていくような仕組みを構築できます」

ファンマーケティング × インフルエンサー施策のコツは以下のとおりです。

・「リーチ力」だけでなく「ファン度」や「インフルエンス度」のあるインフルエンサーを起用すること
・ブランドとして実現したいことをインフルエンサーに伝え、適切なフィードバックを得られるようなコミュニケーションをとること
・インフルエンサーの実現したいことをブランドが後押し、良好な関係を築くこと

顧客体験設計は「WHY」を紐解くことが大切

最後は、ファンマーティングを踏まえた顧客体験(CX)の設計についてです。ブランドとの出会いから現在までのファンの「行動」や「経験」を紐解いていくことで、理想的な顧客体験を設計、または改善することができます。

髙橋「ファンがどんな流れでファンになったのかをカスタマージャーニーに乗せて分析し、そのファンになったプロセスを逆引きすると、どのようにしてファンマーケティングを行うといいのか、各施策に活かしていくといいのかがわかります」

ファンから聞けるのはブランドとどのように出会い、どのような体験をしたかという「HOW」ですが、我々はそれを元になぜ熱狂したのかという「WHY」を考えるのが大切です。そしてファンにも多様性があるので、顧客体験をいくつかのタイプに分類し、それぞれの熱狂プロセスに対応した施策を計画していくことも必要になるでしょう。

ブランドとの体験を紐解く

株式会社クラシコム

関連する事例の一例としては、『北欧、暮らしの道具店』を提供する株式会社クラシコムのUXリサーチが挙げられます。詳細は下記のnoteをご覧いただければと思いますが、オンラインでのユーザーインタビューを通じて「お客さま像のアップデート」をするだけでなく、具体的なサービス改善などにも活かしているようです。

また、インタビュー中に『北欧、暮らしの道具店』との出会いから現在までの関係性の変化をジャーニーマップ形式でまとめ、変化を見えやすくするだけでなくユーザーも思い出しやすくしているとのこと。

例えば4年前からご利用いただいているお客さまの場合、当店を知ったきっかけは思い出せても、いつどんなものを購入したか、当店に訪れる頻度が高まった理由などを詳しく思い出していただくのは難しいです。

そこでお客さまと当店の年表のようなものをつくって、それを一緒に見ながらお話してみたのです。
すると前後の出来事から、その年は仕事が忙しかったからお店には来てなかったけど、翌年に転職して引っ越しもしたので、家を充実させたくなってまた来るようになった。そんな風にお客さまのプライベートな出来事から当店との関わり方が変化したことを話していただけたのです。

※引用:UXリサーチをアップデート!「北欧、暮らしの道具店」流お客さまインタビューのコツ丨Kurashicom Tech Blog

こうした取り組みによって、数値からは見えづらい「行動」や「経験」、企業とファンのつながりを紐解くことができます。

髙橋「ファンがファンになるまで、熱狂するまでの体験を紐解き、トリガーとなる体験を明らかにしたうえで仮説を立てます。その仮説を各施策に活かしていくという取り組みが有効です」

顧客体験の設計を失敗で終わらせないためには、以下に着目するとよいでしょう。

・ファンのこれまでの体験をたどり、ファンになった理由を十分に考察すること
・ファンの熱量が高まるトリガーについて仮説を立てること
・ファンのタイプをいくつかに分類し、社内で合意を取って横断的に活かしていくこと

実行までの流れ

髙橋は「ファンマーケティングのために何か新しい施策に取り組むのではなく、『ファンの資産を活かしながら既存施策をアップデートしていく』という視点で捉えてほしい」と言います。そうすれば既存施策の成果の考え方も用いながら、継続して実施できるのではないでしょうか。

実行までの流れ

ファンマーケティングは「調査」「戦略立案」「実行」という流れで進んでいきます。このフローをベースに、自社やブランドに合ったファンマーケティングを実施してみませんか? トライバルメディアハウスは、マーケティングリサーチから戦略策定、各施策の実行、効果測定まで幅広くご支援しています。サービスについて詳しくは以下をご覧ください。

また、お力になれることがあれば以下よりお問い合わせください。

ご相談・サービスに関するお問い合わせ

「認知は高いはずなのに、思うように売れない」「なかなか成果が出ない」などのお悩みはありませんか。
実績豊富なコンサルタントがサポートいたします。お気軽にお問い合わせください。

髙橋 遼(たかはし りょう)
トライバルメディアハウス マーケティングデザイン事業本部 ソーシャライズデザイン部 ディレクターチーム リーダー

1983年生まれ。鳥取県出身。広告会社を経て、2010年トライバルメディアハウスに入社。
企業のマーケティング戦略構築およびプロモーションプランニング、実行に従事。これまでに大手航空会社、ファッションブランド、スポーツブランド、化粧品ブランド、飲料メーカーなどを担当。株式会社ヤッホーブルーイング エア社員。著書に『熱狂顧客戦略』。
X @ryo_tak

※所属は執筆時と異なる場合があります
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