劇場版「僕の心のヤバイやつ」新規層獲得プロジェクト|作品を愛し、ファンを理解する。共感起点のプロモーション設計
エイベックス・ピクチャーズ株式会社映画の宣伝・マーケティング には、興行収入という、短期で評価可能な重たい目標があります。人気のあるIPの劇場版の場合、 すでに作品を愛しているコアファンに「何度も観てください」と伝えることはできますが、それだけでは映画の動員は十分に積み上がりません。
劇場版 「僕の心のヤバイやつ」の公開にあたり、エイベックス・ピクチャーズさまが当社に託したのは、「作品の名前はなんとなく知っているけれど、まだ本シリーズを観たことがない若い層」へのアプローチでした。今回当社は、恋愛リアリティショーを入口にしたインフルエンサー施策や広告出稿のご支援をさせていただきましたが、その背景には、5年にわたって積み重ねてきたお付き合いがありました。
エイベックス・ピクチャーズ株式会社の伴 牧子さま、当社の栗原、下里に、広報が聞きました。
実績のポイント
- 作品を全話視聴し、ファンの解像度まで深く理解したうえで企画を設計。ターゲット層と作品ファン、双方が「わかってるね」と受け取れる企画を実現
- 公開後、中学生・高校生男子の来場が大きく増加
- 5年にわたる壁打ちの関係が、戦略の上流から任される信頼に繋がった

©桜井のりお(秋田書店)/僕ヤバ製作委員会
トライバルメディアハウスを選定した理由|5年前から続く「何かあったら聞ける人たち」
――まず、当社とのお付き合いの経緯から教えてください。
伴さま:もともと私は、エイベックスの中で音楽事業の人間でした。2020年、コロナ禍の頃から2年ほどかけて、髙野さん(※現当社取締役CVO)に、社内でSNSを扱っている人間向けの勉強会をやっていただきました。その後、エイベックス・ピクチャーズに異動する直前は、avex Youthという新人を育成する部門にいました。そこでもデビュー前の子たちに向けたSNS支援に、やはり髙野さんが参画されていました。
分からないことがあれば聞く。「私はこう思っているけれど、この捉え方でいいのかな」と投げて、返してもらう。そういう壁打ちのような関係が、2、3年続きました。
――当時、髙野にどんな印象を持たれていましたか。
伴さま:ありとあらゆる打ち手に精通していらっしゃり、そのうえで、そのジャンルのファンの方と、私たち発信する側とを繋ぐために何が必要なのかを、ちゃんと言語化されている方だなと思っていました。自分で調べられないところを髙野さんに聞く。そのときにバシッと答えが出てくる方だと。
――そこから、エイベックス・ピクチャーズさまでのお取り組みにつながっていきます。
伴さま:2年前に異動になって、音楽ではなく映像を担当することになりました。最初に手がけた劇場版の作品では、SNSを使っていない層に向けて何かをしなければいけない、という課題がありました。困り果てて、髙野さんに相談したんです。「こういう場合って、どういうアプローチがありますか」と。それが、いまの繋がりのはじまりでした。
何かあったら聞ける人たち。御社に対しては、そういう信頼を持っています。
プロジェクトの背景|興行収入を、コアファンの外へ広げる
――今回の作品では、どんな課題を抱えていらしたのでしょうか。
伴さま:私は劇場版のタイミングから、本作を担当することになりました。
劇場公開する映画ということは、興行収入がついてきます。興行収入を上げるために、これまでついてきてくださったコアファンの方に「何度も観てください」とお伝えするのは、比較的やりやすいんです。ただ、それだけでは映画はなかなか積み上がりません。
そこで私が置いていたのが、作品の名前はなんとなく知っているけれど、観たことがない若い世代でした。この層をなんとか連れてきたい。ただ、どうやって届けるのかが分からなかった。考えていたのは、若い世代がいま夢中になっているものと、作品を結びつけられないか、ということでした。そのなかで浮かんだのが、「恋愛リアリティショー」です。『今日、好きになりました。』という番組のキーワードを私から出して、「これってアニメと結びつきますかね」とご相談したのが、今回のはじまりです。
――今回、当社にお声がけくださった決め手を教えてください。
伴さま:恋愛リアリティショーが好きな若い世代に、どうアプローチするのがいいのだろうか。そこが分からなかったからです。恋愛リアリティショーも、有名なカップルは知っているけれど、いまの子たちが誰を好きなのかまでは分かりません。実感がなかったんです。私がこのまま進めたら、作り物すぎるものになってしまう。ちゃんと知っている人に、一緒に作ってほしかった。
そしてもうひとつ。栗原さんと下里さんのお二人の後ろに、同じ感覚を持った若い世代がたくさんいらっしゃると思っていました。御社にぶつければ、その後ろにいる方たちにも届けてくれて、返ってくるだろう。そう思っていました。

エイベックス・ピクチャーズ株式会社 伴 牧子さま(左)、当社 下里(右)
進め方の特徴|相談は半年前から、戦略の土台を一緒に描く
――ご相談をいただくタイミングが、いつもとても早いそうですね。
栗原(当社):早いですね。エンターテインメントの領域だと、2か月前くらいかもっと直前 に「こういうことを」というお話が来ることもあります。でも伴さまの場合は、戦略の土台の部分をご自身で考えられていて、それをベースに壁打ちのようなミーティングから始まることが多い。それが半年前だったりするんです。
伴さま:私はもともと音楽業界にいたので、短期間での依頼をしてしまう事情もわかっています。でも、それで「間に合わせました」みたいになってしまうのは避けたい。特に今回のように興行収入に直結するかもしれない案件で、そんなことでいいんだろうか、という思いがありました。だから、かなり前からお声がけしました。
栗原(当社):かけられる時間が少ない場合、いただいた戦略をもとに、戦術としてどうしていくか、というところから始まります。今回はタイミングが早かったので、戦略の時点から一緒に壁打ちしながら、ここが良さそう、こっちはこういう方向性のほうが良さそう、と広げていける。そこが大きかったです。
戦略の肝|作品をすべて観てから、企画を立てる
――下里さんは、どう受け止めたのでしょうか。
下里(当社):完全新規の作品ではなく、もともとファンがいらっしゃる作品の映画化である、という点を強く意識していました。恋愛リアリティショーをいま好んで観ている層と、この作品を観ている層は、実は結構違います。
私は恋愛リアリティショーも良く見るのですが、当初は番組タイアップという案もありました。ただ、それをやってしまうと恋愛リアリティショー側が本流のようになってしまい、もともとの本作のファンの方々との距離が広がりすぎてしまうリスクがあるのではないか。そこは率直にお伝えしました。
――作品はどのくらいご覧になったのでしょうか。
下里(当社):お話をいただいてから、第2期まですべて観ました。そのうえで、この企画にはどのシーンがいいんだろう、というところまでファン視点で見極められるように、何度も何度も繰り返し観ています。
栗原(当社):下里はキャスティングやアサインの担当です。なぜ下里なのかというと、作品との相性が高いからというより、ターゲットが誰よりも見えるからなんです。周辺のその世代の方にヒアリングして解像度を上げる。自分で作品を繰り返しすべて観て、どんなふうに感じている人たちなのかをSNSなどのクチコミを通して確かめる。そのうえで、いただいた戦略と合致しているのか、違う部分はどこか。そこにフォーカスして企画に落とし込んでいきます。
伴さま:ちゃんと観ているので、インサイトの深さが違います。作品をここまで愛してくださる方には、なかなか出会えません。作品を観て、愛してくださったうえで「どうしましょう」とご提案をしてくださるのが、御社なのではないかなと思っています。
これ以外にも進めている企画が沢山あるため、我々だけだったら、ここまで作り込めません。第2のブレーンがいてくれるから、この部分もお任せしますと言える。ある程度考えていただいていいですか、頭出ししてもらっていいですか、と言える状況が、ありがたかったです。
キャスティングの決め手|「絶対にこの人しかいない」と思えた理由
――インフルエンサー施策の起用について教えてください。
伴さま:私の経験上のインフルエンサー施策は、アーティスト同士のコラボレーションや、「踊ってみた」をやっていただく、といったものがメインでした。ゼロベースで語ってもらって紹介してもらう形は、今回が初めてだったんです。
では、誰に語っていただくのがいいのか。かなりの人数を出していただきました。そのなかで、誰なら作品のファン、特にコアのファンの方々に、抵抗なく受け取ってもらえるのか。そこを重視しました。
御社からの提案資料には、この方はこういう人で、いまこういうタイミングでこういうところから出てきた人ですよ、というところまで細かく書いていただいていました。本作のヒロインは、初めての彼氏ができたばかりの女の子なのですが、そのステータスに合致する方が谷村優真(ゆま助)さんでした。この人しかいない、と思って、お願いしました。
――当社の提案をそのまま受け止めていただけたのは、なぜでしょうか。
伴さま:これまでの積み重ねが、ベースにあるからだと思います。宣伝は結局、目的があるところに力を注ぐもの。そう判断できるだけのご提案をいただけていました。

引用:谷村優真(ゆま助)https://www.tiktok.com/@yuma.yuma0720
企画設計の肝|「案件ですね」と言われないために
――新規層に届けることの難しさは、どこにありましたか。
伴さま:実は「新規を取ってこなければいけないから大変だ」とは、あまり思っていませんでした。アニメは、いまのZ世代の方にとっては、私の世代でいうドラマを観るような感覚で、ハードルがあまりないんです。
むしろ難しかったのは、感度の高い若い世代がSNSにいるなかで、「宣伝色」が出た瞬間に引かれてしまうことです。どうすればその色を消せるか。そのバランス感覚のほうが頭が痛かったですね。
栗原(当社):裏を返せばみんながアニメを観るのが当たり前になっている中で、数多ある作品の中から「このアニメを見つけてもらう」ことのハードルもあると思っています。マスプロモーションでは認知はとれるものの、なかなか興味まで醸成するのは難しいので、趣味嗜好、価値観で繋がった集団=「トライブ」にアプローチする「トライブマーケティング」が有効な手法になります。ただ、トライブマーケティングの対象は、そこに興味関心がある人たちになるため、そこに「宣伝色」を出してしまうと「ああ、案件ですね」となってしまう。だからこそ、バレンタインという文脈だったり、「彼氏にこれを作っているのかな」という語り口だったり、「わかってるね」と受け取ってもらえる作りにする。そこがポイントでした。
下里(当社):考え方としては、ファンダムマーケティングのプランニングとも共通しています。作品を大切にしているファンの方にも受け入れてもらえて、新規の方にも「この企画、わかってるね」と思ってもらえる。両者がうまく交わる企画を考えていく。そこは強く意識していました。
伴走がもたらしたもの|PRだと思われなかった投稿と、10代の来場増
――結果はいかがでしたか。
伴さま:お互いのファンが喜んでくださったことがひとつ。そして、投稿を見て「PRだと思わない」方が多かったことが、私のなかでは一番新鮮でした。こちらから引用して投稿すると「公式が再投稿している!」と気づいて、逆に喜んでくださる方もいました。
――そこは、かなり仕込まれていたのでしょうか。
下里(当社):PRと思われないように、構成案の段階から何度も、どうしたら自然に情報を受け取ってもらえるか、というところを話し合っていました。PRコラボレーションは、途中でタイアップだと分かった瞬間に離れてしまうことがあります。いかに自然に作品に触れてもらえるか。タイミングもバレンタインに重ねて、違和感のないところで展開する。そこは確認しながら作らせていただきました。
伴さま:ゆま助さんが制作したクリエイティブの修正は、ほぼありませんでした。最初の段階から、作品をちゃんと捉えてくださっているのが伝わってきました。反響も、作品のことにたくさん触れてくださるファンの方が多くて。相性の良さは、こちらの気づきでもありました。
そして、これは思いがけないことだったのですが、10代の男子の来場が大きく増えていました。公開後の打ち合わせで「中学生の男の子が3、4人連れ立って来ているのをよく見ました」という話を聞きました。そういう話をちらほら聞くなと思っていたら、来場者のデモグラフィックデータでも、中学生・高校生男子の割合が当初の想定より多い、という結果が出ていて。あるとしたら、今回のインフルエンサー企画を見て盛り上がってくれた方たちのなかから、来てくださった可能性があるだろうと思います。
栗原(当社):動員に跳ね返ったかどうかは、プロモーションだけの変数ではありません。公開している劇場数(フィジカルアベイラビリティ) も公開タイミングなどもあります。ただ、コントロールできる部分として、どれだけ「興味」を醸成できるかがある。そこに届いた実感を持てたのは、大きかったです。
下里(当社):お伺いして、驚きましたし、嬉しかったです。なかなか目に見えづらいところだと分かっていたので、どういう結果になるんだろうとドキドキしていました。そこに届いていると聞けたときは、本当に良かったです。

©桜井のりお(秋田書店)/僕ヤバ製作委員会
――伴さまは、今後に活かせそうなことはありましたか。
伴さま:髙野さんに言われたんです。「こうやってご一緒すると学びができるはず。この学びを、自分の別の業務に活かしていいよ」と。それを本気にして、ここで勉強したことを、別の機会に使っているんです。
たとえば、映画のレビューをされているインフルエンサーの方に、私自身から声をかけてやり取りをしたことがありました。そのときに、今回のやり取りを思い出して「こうやって依頼すればいいんだな」と。いろいろ勉強させていただきました。

トライバルメディアハウスの支援
このプロジェクトで当社が担ったのは、宣伝施策を代行することではなく、作品を観て、そのファンの解像度まで理解したうえで、「誰に、どんな入口から届けるか」を一緒に設計する。そして、興味関心の高い人たちにこそ「わかってるね」と思っていただける届け方を考え抜く。企画から実行、効果測定まで伴走することです。「ファンを大切にしながら、新しい層にも広げたい」とお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。
※記事の情報は取材当時のものです。
Overview
クライアント:エイベックス・ピクチャーズ株式会社
業界:エンターテインメント
対象:劇場版「僕の心のヤバイやつ」
支援内容:新規層の認知獲得と来場促進を目的としたインフルエンサー施策および広告出稿の企画から効果測定までの伴走
スタッフリスト
下里美海(PM・インフルエンサー施策プランニング・ディレクション)
栗原健也(プロデューサー)
岩花佑太(ADプランナー)
白﨑薫・松井凉(クリエイティブプランニング)
Overview
- クライアント
- エイベックス・ピクチャーズ株式会社
- 業界
- エンターテインメント
- 支援内容
- インフルエンサーマーケティング
その他のコンテンツ
- 私たちの特長
ソーシャル・SNS黎明期から業界を牽引してきた私たちは、企業の売上のメカニズムを構造化し、戦略と「やること」「やらないこと」を明確にして課題解決まで伴走します。
- 得意分野
マーケティングにおいて幅広く支援できる私たちの、特に知見と経験が豊富な業界・手法をご紹介します。
- 支援領域
貴社のマーケティング課題を特定し、解決に向けて併走いたします。
- 実績紹介
領域を問わず、毎年多くのプロジェクトをご支援させていただいています。私たちが事業成果へつなげたプロセスをご覧ください。
- ナレッジ
現場の課題解決に直結する実践的なナレッジや考え方を体系的に発信しています。
- 会社紹介
トライバルメディアハウスの会社概要や、出版・メディア掲載情報などをご紹介します。