2015/03/30

【キーパーソンインタビュー】クロスチャネル時代のUXとは ~ネットイヤーグループ UXデザイナー 坂本貴史氏~

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コーポレートサイト、ブランドサイト、アプリなどのオウンドメディアで提供するものは情報だけではありません。企業とユーザーとの接点が増える中で、ユーザーがどんな体験をし、どんな反応をするのかというユーザーエクスペリエンス(UX)の視点からの設計がますます重要になってきています。

そこで、今回はネットイヤーグループ株式会社のUXデザイナーで、著書「IAシンキング Web制作者・担当者のためのIA思考術」(ワークスコーポレーション)をはじめ多数の執筆、寄稿、セミナー講演なども行う坂本貴史氏に、オウンドメディアのUXについてお話を伺いました。

<聞き手>
トライバルメディアハウス マネージャー 梅垣 至弘

 

WebデザイナーからUXデザイナーへ

――坂本さんは、もともとどういう経緯で今のUXのお仕事を始められたのでしょうか。

もともとはWebデザイナー出身で、その後ディレクションも担当するようになり、いくつかの会社で経験を積んだ後にネットイヤーグループに入社しました。

入社当時は、銀行の合併が相次いだ時代で、合併を機にWebサイトでの情報の見せ方をどう構築していくか、設計していくかというインフォメーションアーキテクト(IA)の視点でプロジェクトに参加するようになりました。デザイン畑出身でしたが、情報をどう構成して見せるかは興味の範囲でしたし、これまでの経験やスキルが活かせる分野でした。

今でも、企業の合併、統合などで大規模サイトの情報設計を見直すというプロジェクトはありますが、最近は企画立案段階でUX視点を取り入れた提案が多いです。また、サービスコンセプトを踏まえた上でプロトタイプを作って、それを企業内でワークショップを行うといったことも増えてきました。

企画立案での段階を「始め」とすると、もう一つがルール化していく段階にあたる「最後」の部分です。ルールというのは、Webサイトを設計・構築したあとにどのような方針で運用していくかといったガイドラインの整備や運営するにあたり統制していくべき内容をまとめたWebガバナンスの整備などですね。

――具体的にはどういったことをされるのですか?

企画立案で設定したWebサイトの目的を踏まえて、Webサイトのデザインやポリシーをドキュメントにします。例えばUI(ユーザーインターフェース)におけるデザインポリシーとして、ナビゲーションのスタイルやボタンの大きさ、使用するフォントなどをルール化します。ここを明確に規定できると、グローバル企業が海外展開する時などにも応用でき、各国でも統一したブランド展開ができます。

そうしたルールを作っていくことが好きなので、クリエイティブをどうコントロールするか、意図した設計をどう具現化していくか、というところまで踏み込んだコンサルティング、企画立案が得意です。

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ネットイヤーグループ UXデザイナー 坂本 貴史 氏

 

Webサイトは数多くあるユーザー接点の一つに過ぎない

――オウンドメディア戦略において、UX視点ではどのような設計が期待されるのでしょうか。

Webサイトをかっこよくすれば人が来るのでは、と考える人がたまにいるのですが、そもそも露出が足りていなければ人は来ません。人は目的があってWebサイトを利用するのですから、そうしたユーザーの目的に合わせて考える必要があります。

オウンドメディアを検討する際にも、ユーザーの接点がどこにあるのかを考えるところからスタートすると思いますが、Webサイトはシナリオの一つに過ぎず、そこで解決できることは多くはありません。したがって、チャネルを広く捉えてユーザー体験を考えていかないと、なかなかオウンドメディア全体の効果は上がらないですよね。

そうして考えると、オウンドメディアは常にチャネル横断で考えるべきで、チャネルごとのゴール設定のほかに、クロスチャネルを見据えたゴール設定がないと、オウンドメディアとしての価値はあまりないのではと思います。

――Webサイト以外でいうと、どういったチャネルまでを含めて考える必要がありますか?

例えば、今、IoT(Internet of Things:家電、日用品など、いわゆるインターネット機器以外の物体にもネットワーク接続ができる技術、また接続された製品)を使ったコミュニケーションが話題だと思いますが、そうしたバズワードをソリューションに置き換えて考えられる人はまだあまりいないと思います。

わかりやすい例でいえば「ビーコン」と呼ばれる無線を使った施策で、店頭集客や店内におけるお客さんとのコミュニケーションの企画です。その場合、ユーザーはスマホのアプリを使ってどういう体験をするのか、店舗側は無線を使ってどういう体験を提供できるのか、という両方の視点から考えないといけません。それらがリアルタイムで実施できることで、Webサイトとは違い、インプットとアウトプットが共存し、その環境や利用状況をふまえて検討するため、より広いチャネルでものごとを考える必要があります。

その半面、IoTの時代にはオウンドメディアを提供する側は大量のデータを管理しないといけなくなりました。提供する側はすべての情報を一度に発信するのではなく、ユーザーに必要な情報を取捨選択する行為、いわゆる情報のキュレーションが必要になります。このように情報の編集力が求められ、組織の部門としてはこれまでどこも担ってこなかった役割を担う必要がでてきました。そのため、クロスチャネルを踏まえたコンテンツ戦略を担う場所として、組織や人を構成することがより重要になってきますね。

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トライバルメディアハウス マネージャー 梅垣 至弘

 

マーケターに求められるのは、「編集力」と「想像力」

――クロスチャネルの時代に、コミュニケーションを設計するにあたって企業マーケターはどんなスキルが必要になりますか。

先ほどの情報のキュレーションにもつながりますが、「編集力」と「想像力」だと思います。例えば、ターゲットは40歳の女性としたときに、その具体的なユーザー像を想像できるかというところは、そうした年齢の時代背景やそれを表現する文系の素養も必要になってきます。

顧客との接点や購入前後の体験を想定する「カスタマージャーニー」を考えるときでも、具体的なイメージを持ってシナリオが構築できるか、ユーザーの立場にたった文系的な発想で仮説が立てられるかなど、編集力の有無にも関わってきます。

――オウンドメディアはチャネル横断でというお話がありましたが、部署横断的な組織をまとめるためにはカスタマージャーニーが重要になるのですか?

カスタマージャーニーはまとめるというよりも、関係者が共感・共有するために使うと効果的なツールだと言えます。

オウンドメディアは結局お客さんとの接点をどう作るか、一番よい形の接点をどう作れるかということになると思うで、既存のチャネルにこだわらずに議論するためにもカスタマージャーニーマップを共有して考えることは効果的だと思います。

カスタマージャーニーマップを作るにあたっては、リサーチやマーケティングデータに基づいたペルソナが必要になりますが、基本的にペルソナはデモグラフィックだけでは不完全です。ペルソナ設計で重要なのはなにか一つでもファクトを用いだすことです。仮説だけでできているペルソナは都合の良いキャラになってしまうので。

僕の立場でいうと、ペルソナの数よりもシナリオの数のほうが重要です。シナリオとは行動プロセスを可視化したものです。デモグラフィックの情報は付加情報に過ぎず、シナリオ設計としてはユーザーの行動(アクション)だけでもいいと考えているくらいです。ユーザーがアクションをとるインサイトを探るためにペルソナがあればいいかなという感じです。アクションを起点に考える設計が理想だと考えます。

 

IoTによってUXはどう変わっていくか

――マーケティングの世界でもテクノロジーの進歩は顕著です。このままだと、将来的には「個人の行動パターンを把握した上で、個人ごとにUXのパターンを自動的に変える」ということも実現するのでしょうか?

人間はそこまできっちりパターンで分けられるわけではないと思うので、アクションをした時にどうすればいいのか、という考え方を僕は支持します。

将来的に予想ができないのは、IoTとウェアラブルのマッチングがどこまでプラットフォーム化するかということですね。カスタマージャーニーマップでも、今は一人1デバイスを想定していますが、将来的にはデバイスを手、目、耳、腕など同時に身に付ける場合が考えられるため、どんどん細分化することになるのではないかと考えることができます。一人でどれくらいの端末を身につけるのか、用途によって付け変えるのか、あるいは複数が共存するのかなど、それらの情報がつながったときどのような体験が実現できるのか、まだ想像がつかないですね。

例えば、人が家に帰った時に自動的に認識されてエアコンが付く場合、行動は自分では意識していないわけですから、インターフェースという言葉自体の意味も変わってくると思います。つまり、インターフェースがなくなっていくような感じですかね。今はインターフェースといえばUIデザインとして目に見えていますが、Google Glass(Google社が発売したメガネ型デバイス)になった時点ではメガネのレンズがインターフェースの一部になりますし、IoTの例でエアコンの場合には身体的な行動(部屋に入ったこと)がトリガーになってエアコンが作動するということになるので、ユーザーが意識するインターフェースデザインという目に見えるモノがどんどん薄くなくなっていくと思います。

そういう状況を踏まえると、今後は、情報を受け取ったユーザーがどう思っているか、どう考えているかを掘り下げていくことがより大事になります。そうしたユーザーインサイトを理解するためのコミュニケーションツールやコミュニティなどがますます活発になっていくでしょうね。

 

<インタビュー・原稿執筆協力: 深谷 歩(株式会社深谷歩事務所 代表取締役)>

 

 

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