
2010年08月13日
日産リーフは週刊ダイアモンドの「ツイッター・マーケティング入門-マス広告をやめた日産「リーフ」」として取り上げられるように、ソーシャルメディアを積極的に活用している。日産リーフはいま、ソーシャルメディアをどのように活用しており、これから何が出来るのだろうか。事例だけでなく、今後の可能性についても記述した。
Twinavi公式アカウントを持っている日産は、日本の自動車メーカーの中で最もソーシャルメディアに取り組んでいる企業と言えるかもしれない。
実際に、日産リーフは、ブログ、Twitter、Flickr、Youtube、Tumblrを活用して消費者との関係性を築いている。

1.利用しているソーシャルメディア
ブログには各ソーシャルメディアの活用について以下のようにな説明している。
http://blog.nissan.co.jp/EV/2010/INFO/01.html
<以下、引用>
・Twitter(http://twitter.com/NISSANEV)
LEAF(リーフ)や、インフラ整備など、電気自動車関連の情報を日々お伝えします。社内関係者から募った、とっておきのネタもご用意しています。
・Flickr(http://www.flickr.com/photos/nissanev/)
試乗会などのイベントの模様やクルマの写真などを公開。皆さまにもブログ等でお使いいただけるようクリエイティブ・コモンズの設定をしています。
・Youtube(http://www.youtube.com/user/NISSANev)
Flickr同様、試乗会などの模様を撮影した動画をYoutubeに公開します。
・Tumblr(http://nissanev.tumblr.com/)
自動車専門サイトやニュースサイトなどで取り上げられた電気自動車関連の情報をクリッピングしてお届けします。
日産自動車発の情報とあわせてご覧ください。
Twitterのフォロワー数は5207人、動画再生回数は82,000回と爆発的にソーシャルメディア上でヒットしているとは言えないかもしれない。
ただ、各活動を見ていくと、日産の戦略は認知を高めることではなく、消費者とのエンゲージメントを高めるアドボカシー型マーケティングを採用していることが分かる。
2.アドボカシー型マーケティングの実践
消費者の言葉を傾聴し、消費者と会話する戦略は実行されており、アドボカシー型マーケティングにより、ファンとの継続的な関係性を構築している。
・Twitter、つぶやきの42%が@リプライで質問に対して答える運用
Twitterのつぶやきを統計してみると(参照:http://tweetstats.com/graphs/nissanev#tstats)42%が@リプライで質問に応えることが分かる。消費者の質問に答えてコミュニケーションを実現している。
・「電気自動車によって社会はどのように変わると思いますか?」と質問する意見視聴型UGC
「賛成の連鎖 -the new action-」(参照:http://ev1.nissan.co.jp/)というコンテンツがある。

これは、電気自動車が普及することによって社会がどのように変わるかというテーマで消費者とTwitterやTumblrを使ってコミュニケーションしている。
日産リーフの話をするのではなく、より広く消費者の興味がある話題でコミュニケーションに成功している。
・消費者の声を生かしたブログコンテンツ
ブログの中で試乗レポートのTwitterをまとめたTogetter(参照:http://togetter.com/li/30705)を紹介し、消費者の口コミをブログコンテンツに生かしている。
http://blog.nissan.co.jp/EV/2010/PRODUCT/21.html
<引用>
実際にリーフに試乗された方のツイートやブログを拝見すると、走りの快適さについて多くの方が述べていらっしゃいます。
簡単にまとめてご紹介すると...
◇優れた加速性能
◇素晴らしいハンドリング
◇そして、とても静か
これが電気自動車の走行音。確かに未来の車の走行音!これは一度乗ってみたいです。
3.今後、ソーシャルメディアを活用して出来ること
ソーシャルメディアマーケティングの名著「グランズウェル」で紹介されている
・傾聴戦略(リサーチ、顧客理解)
・会話戦略(双方向コミュニケーション)
・活性化戦略(口コミ最大化)
・支援戦略(顧客の助け合いによるサポート軽減)
・統合戦略(設計プロセスに顧客の声を取り入れる)
のうち、傾聴、会話戦略については、日産リーフにおいて既に実行されている。まだ発売されていない製品なのでサポートを軽減する支援戦略は出来ないが、活性化戦略、統合戦略で出来ることはないだろうか。
<活性化戦略>
・意見視聴コンテンツから、イベントの感情を伝えるコンテンツへ
「賛成の連鎖 -the new action-」(参照:http://ev1.nissan.co.jp/)も、消費者とエコというテーマを通してコミュニケーション出来るコンテンツだが、商品との関連性が薄くなってしまう。
そこで、試乗イベントの高ぶった感情で消費者とコミュニケーションする方法はどうだろう。
<引用>
http://twitter.com/Syanaru/status/16042092102
乗ってきた~!スゲー!モーター音が心地よい!未来の車だ!加速とかも予想以上に良い!これ…欲しいよ!
こういう試乗後の口コミをその場で集めてハッシュタグでまとめて、現場感を伝えるコンテンツは可能性がある。
インフルエンサーマーケティング
これまで紹介したフォード(参照:http://br-cross.jp/smm/detail.html?id=15)やシボレー(参照:http://br-cross.jp/smm/detail.html?id=25)のキャペーンのようにインフルエンサーを巻き込んだコンテンツでユーザの声を広く伝える取り組みも、注目されている電気自動車だからこそ可能性がある。
<統合戦略>
ヒアリング結果をマーケティングに活かしていく。
先ほど、消費者の声を生かしたブログコンテンツ(参照:http://blog.nissan.co.jp/EV/2010/PRODUCT/21.html)を紹介したが、こういった消費者の声をブログコンテンツだけでなく、サイトコンテンツやマーケティング上の施策に活かしていくことも可能だ。
4.まとめ
まだ発売されていない日産リーフですが、消費者とコミュニケーションを図りながらエコへの取り組みを強調し、期待感を高めていることが分かります。
また、意識変容の効果を測るため、サイト「賛成の連鎖 -the new action-」(参照:http://ev1.nissan.co.jp/)の一番下に「この情報によって、電気自動車(EV)への興味は高まりましたか?」という質問を載せられています。
どれぐらいの意識変容が起こっているのか、聞いてみたいところです。
SMMコンサルティンググループ マネージャー 宮本 昌尚

2010年04月26日
第二回目は、NEC様の「ソーシャルメディアポリシー」をご紹介させていただきます。4月7日に公開されたこのガイドライン、国内大手企業で初の動きとだけあって、業界内ではかなり話題になりました。
ビジネス/プライベートにソーシャルメディアが浸透しつつある現在、新たな問題が生まれてきています。例えば、「プライベートのブログで所属企業名を明かしてよいのか」「業務時間中の公式アカウントの運用は誰がどのように対応するのか」「第三者の”なりすまし”をどう防ぐか」「非公式のコミュニティをどう扱うか」…などなどです。
ソーシャルメディアの浸透は進む一方ですので、こうした課題へ対応する必要性は日々高まっていると言えます。そこで登場する一つの解決策が、従業員のソーシャルメディア利用についての指針である「ソーシャルメディアポリシー(ガイドライン)」です。
(ちなみに、「ガイドライン」と「ポリシー」の語義的な違いは、“「ポリシー」の方が強制力が強い”とされています。[参考: Difference Between Guideline and Policy])
そもそもなぜ必要なの?
ガイドラインを策定する目的は、大きく下記の2点に整理できます。
1.リスクの最小化(守る)
ソーシャルメディア上は、たった1人の従業員の間違った振る舞いが、企業に大きな影響を与える可能性があります(やらせ、なりすまし、失言など)。ソーシャルメディア上で情報発信をする従業員は今後も増えていくため、リスクも高まっていくと考えられます。
従業員が適切にソーシャルメディアを利用できるよう、ガイドラインとトレーニングを通してソーシャルメディア上のマナー・振る舞いを身に付けてもらうことが、目的の一つです。
2.新たなチャンスを活用するため(攻める)
ソーシャルメディアはこれまでになかった形での、生活者とのコミュニケーションを実現できる可能性を秘めています。例えばツイッターでは、ツイートをモニタリングすることで、自社商品に関するツイートをした方に対して、能動的にアプローチを取ることが可能です。
(例:「(生活者)○○の使い方が分からない!」→「(企業)こんにちは、お困りでしょうか?お手伝いしましょうか?」、「(生活者)○○へ行ってきた、楽しかった」→「(企業)こんにちは、ご来場有難うございました」など)。
トレーニングなどを通してリスクを最小化した上で、従業員のソーシャルメディア利用を許可・推奨すれば、生活者との関係を強化するチャンスを掴むことができます。いわばこれは「攻め」の姿勢であり、ガイドライン策定のもう一つの目的です。
ソーシャルメディアガイドライン策定の実態
NEC様へのインタビューをご紹介する前に、ソーシャルメディアガイドライン策定の実態をご紹介いたします。
海外では、米国を中心に100以上の企業・団体がソーシャルメディアに関するガイドラインを策定・公開しています。中には公開していない企業や団体もあるはずですので、総数としてはもう少し多いと考えられます。
日本では、一部の企業を除き、ほとんど公開されていないのが現状です。NEC様が公開をしたことで、日本でもガイドライン策定の動きが活発化することが予想されます。
ソーシャルメディアポリシーの内容
内容は業界や企業によって様々ですが、「従業員の対外的なコミュニケーションを奨励する」というものが、多くの企業が取っているスタンスです。「奨励」とは逆の「縛り」を与えるような内容は、現時点では一般的ではありません。
NEC様へのインタビュー
2010年4月7日、NEC様がソーシャルメディアポリシーを公開したことを知り、早速インタビューを申し込んだところ、すぐさまご快諾を頂くことができました。
下記に4月14日に実施したインタビューの概要をまとめます。
今回、インタビューにご協力頂いたのは、ソーシャルメディアポリシー策定を現場で担当された、CRM本部 宣伝部 Webコミュニケーショングループ マネージャー 田中滋子様、同グループ 主任 野坂洋様と、CRM本部 宣伝部 IMC推進部グループ マネージャー 朝火英樹様、同グループ 主任 内田朝子様の4名です。
NEC様では、宣伝部が営業ビジネスユニット内のCRM本部の中に属しています。これは、NECの「事業貢献をKGIに据えたマーケティング活動」という理念に則った組織体制が採用されているためです。この組織体制からも、今回のソーシャルメディアポリシーを日本の大手企業の中でもいち早く策定・公開した背景を感じることができます。
さて、NEC様のポリシーの冒頭には、こんな文言があります。
「社員と、ステークホルダーとがコミュニケーションを通じて絆を強くすることは、社員個人の価値を高めるだけでなく、NECブランド向上に多大な貢献をもたらすことを常に認識します。」
ごく簡潔ですが、対外的な窓口である公式サイトにこのようなメッセージを載せることは、非常に意義があることだと感じます。企業として、従業員のオープンな対話を奨励していることが明文化されており、これからの企業が採るべきソーシャルメディアとの関係の持ち方として参考になると思います。
実際に社員がソーシャルメディアに参加する場合の心構えとしては、「傾聴の姿勢を忘れないこと」「ソーシャルメディアにおける情報発信や対応に責任をもち、誤解を与えないように注意すること」など5項目が挙げられています。
項目の一つである「経験を通じ、学ぶこと。また、その経験を広く社内外に共有し、多くの個人やコミュニティの成長に貢献すること。」という言葉は、ソーシャルネットワークの特徴を良く捉えていると感じます。こうした意識がしっかりと浸透していけば、健全にソーシャルメディアを活用することができるのではないでしょうか。
同時に、NEC様は公式アカウントの一覧も提供しています。「ソーシャルメディア公式アカウント一覧」のページでは、各アカウントの「テーマ/目的」や「対応時間」などが明記されています。このように、公式サイトでオーソリティ(正当性)を与えることで、「なりすまし」のリスクを回避でき、閲覧者の混乱を防ぐことができます。
さらに、NEC様は社内向けの「ソーシャルメディアガイドライン」も作成しています。こちらは社内向けゆえに未公開ですが、今回は部分的に許可を頂きましたので、その目次と概要をご紹介させて頂きます。
1. ガイドラインご利用に当たって
目的、位置づけ、利用者などについて
2. 準備編:ソーシャルメディア利用の戦略策定
前提の理解、目的の明確化、戦略策定にあたって
3. 運用編:コミュニティ参加に当たっての心構え
基本方針、情報共有の姿勢などについて
4. 評価・分析編
方針、評価方法について
5. 附則
関連法規および社内規定、利用細則などについて
社外公開用の「ソーシャルメディアポリシー」「公式アカウント一覧」、社内用の「ソーシャルメディアガイドライン」の3点を用意しています。
ちなみに、「今回のソーシャルメディアポリシーは、上長からの指示で策定・公開に至ったのか?」と質問させて頂いたところ、「特に上からの指示があったわけではなく、現場の認識として、しっかりスタンスやルールを明確にし、公開をするべきだ。まだどの企業も公開していないのなら、今までソーシャルメディアから頂いたいろいろな情報や知見に対する恩返しをするという意味合いも含め、自分たちで作成し、公開しようと決めました」とのことでした。
ポリシーだけでなく、現場の方々のソーシャル的志向が非常に印象深く残っています。
また、「今回のソーシャルメディアポリシーは外部の会社に依頼して作成したのか?」との質問には、「ソーシャルメディアとの関係性については、自社の中でしっかりと議論をし、社内で作成するべきだと考えた。そのため、外部の会社には依頼していません」とのご返答を頂きました。これは企業によって状況や考え方は異なるかもしれませんが、NEC様のスタンスを明確に示すものだと思います。
ソーシャルメディアポリシーの策定・公開に当たっては、部門横断的な連携・確認が必要となります。「今回のプロジェクトでは、CRM本部宣伝部が主幹となって進めたが、最終的な確認を含め、具体的にはどの部署と連携・確認を取りましたか?」という質問には、「CRM本部宣伝部のほかに、広報を担当する部門、法務部、社員の行動規範を主管する部門などとの連携・確認作業を行いました」との回答でした。マイクロソフト様も5つの部門で連携してSMCOE(Social Media Centers Of Excellenceを策定しましたが、NEC様でもおよそ5つの部門間で連携したそうです。やはり、部門横断的な協力体制や、現場でのコミュニケーションなどが大切といえそうです。
最後に、「今回のソーシャルメディアポリシーの策定・公開に当たって、一番苦労した点は?」という質問に対しては、「良質な資料や事例はほとんど英語だったので心許ない部分はあった。また、ソーシャルメディアにおけるあり方というのを、あるべき論で盛り込みすぎると、ある意味、崇高になりすぎ、社員が参加する敷居を過剰に上げてしまったり、社内調整が困難になったりする、という恐れがあった。これらについてはメンバー間で議論してエッセンスを凝縮した。」とのご返答でした。
NEC様も、ソーシャルメディアを「脅威」としてではなく、できる限り「機会」と捉え、社員が積極的にソーシャルメディアに参画することを奨励するポリシーを志向されたようですね。
ソーシャルメディアトレーニングも重要
ソーシャルメディアガイドラインはSMM施策への第一歩ではありますが、ガイドラインの内容を浸透させるためにはトレーニングが重要です。NEC様も今後はWEBベースのトレーニングなどに取り組んで行きたいと仰っていました。
トレーニングといえば、豪州の通信会社、テルストラは興味深いソーシャルメディアに関するトレーニングを実施・提供しています。一般公開されており、誰もが利用することができます。電子コミック風で、ワンクリックで解説動画が流れる楽しい作りのトレーニングプログラムです。2009年12月までに、約40,000人の社員のうち12,000人が受講を終了したそうです。

企業規模が大きくなるほど、ガイドラインの浸透は難しくなってきます。ガイドラインを作る際に、どのように社内に浸透させていくかということも、別途考えておく必要があります。そういった意味では、4万人規模のテルストラのこの取り組みは、今後、日本でも広がっていくかもしれません。
健全なソーシャルメディアの浸透と、日本のSMMの発展を期待
ソーシャルメディアポリシー/ガイドラインは、社内の知識を平準化するものです。順調に浸透していけば、個人として、企業としてソーシャルメディア上で誤った行動を取るリスクは減っていくと思います。
それに留まらず、ポリシーを一般公開すれば、“社外”のリテラシーの向上にも繋がります。
ソーシャルメディアポリシーの作成に携わったNEC様CRM本部宣伝部の野坂さんは、「取材の内容をブログ記事や弊社サイトでオープンにしてよいか?」という私たちの質問に対してこんな風にお答えくださいました。
「オープンにしてもちろん構いません。うちのポリシーも、いくつかの先例を参考にして作りました。知識をオープンにして、業界全体が向上していくことに少しでも貢献できれば、これ以上嬉しいことはありません」との回答を頂きました。僭越ながら、すばらしいことだと思います。
野坂さんの言葉の通り、ソーシャルメディアポリシーの策定・公開は、業界全体、ひいては日本全体の知識のボトムアップに繋がって行くと思います。2010年4月、日本を代表する大企業であるNEC様が口火を切ったことのインパクトは非常に大きいと感じます。
全社的な関与のもと、億単位の予算で長期的なSMM施策が行われている海外と比べると、日本の施策はまだまだ小ぶりなものかもしれませんそもそもソーシャルメディア自体の浸透度・規模は違いますが)。
しかし、今後、数年をかけて、ゆっくりと、着実に企業全体のソーシャルメディアリテラシーが向上し、日本発の成功事例が数多く排出される可能性を感じました。当コーナーは日本のSMMの「進化史」にしていきたいと考えています。
お忙しい中、突然のインタビューにご対応頂いたNEC様 CRM本部 宣伝部の方々に心から感謝申し上げます。ありがとうございました!
SMMアナリスト 池田 勇人
ソーシャルメディアトレーニングも重要
ソーシャルメディアガイドラインはSMM施策への第一歩ではありますが、ガイドラインの内容を浸透させるためにはトレーニングが重要です。NEC様も今後はWEBベースのトレーニングなどに取り組んで行きたいと仰っていました。
トレーニングといえば、豪州の通信会社、テルストラは興味深いソーシャルメディアに関するトレーニングを実施・提供しています。一般公開されており、誰もが利用することができます。電子コミック風で、ワンクリックで解説動画が流れる楽しい作りのトレーニングプログラムです。2009年12月までに、約40,000人の社員のうち12,000人が受講を終了したそうです。

2010年04月10日
ソーシャルメディアマーケティングのあり方の示唆

2008年11月に始まり、現在も続いているこのキャンペーンは「ブログ」を対象にしたものです。「ブログマーケティング?そんなのもう古いんじゃない?最近はツイッターが熱いんでしょ?」…なんて思わないでください。ブログであれ、ツイッターであれ、生活者との関係構築を目的とするのなら、ツールの差異は小さな問題です。
「ソーシャルメディアマーケティングは魔法の杖ではない」というスタンスを当社は貫いています。ツイッターを使ったからといって、商品がバンバン売れる、ブランド認知が一気に向上する、なんて魔法のようなことは残念ながら難しいでしょう。
ソーシャルメディアを使う目的とは何でしょうか?ケースバイケースであることを承知で、一つ私の考えを書かせていただきます。
ソーシャルメディアは、新しい形での生活者との接点を生み出しました。SMMの目的の一つは、ブログ、ツイッター、YouTubeといった新たな「窓口」で、生活者と関係を構築していくことにあると私は考えています。その意味では派手な短期的キャンペーンよりも、地道で愚直なコミュニケーションの方が、中長期的に効果を上げる場合もあるはずです。
貝印様の事例はどちらかと言えば、地道なキャンペーンです。しかし、そこで発生しているコミュニケーションには、ソーシャルメディアが存在するからこそ実現した人間的な「タッチ(接触)」が垣間見えます。貝印様の織り成す「カイタッチ」の世界を、当コーナー最初の事例として紹介します。
人間的、あまりに人間的な「カイタッチ」の世界
「カイタッチプロジェクト」は、“お題に沿って掛かれたブログ記事に、社員が一つひとつコメントを付ける”という内容のものです。前述のように2008年 11月から続けられているキャンペーンで、まもなく1年半を迎えようとしています。3人から始まったこのプロジェクト、現在担当者の数は23名を数えるま でに至っています。「貝印」ブランドの一端を象徴するプロジェクトとして今後も続けられていくのでしょう。

コメントを付けに行く、というのはごく簡単な作業に思えますが、これがけっこう大変です。「ブログ記事ありがとうございます。今後とも宜しくお願いします。」という当たり障りの無いコメントを書くことは簡単ですが、カイタッチプロジェクトでは、しっかりとお客様のブログ記事の内容やプロフィールを理解した上で、コメントを残しています。あるブログ記事に対しては、なんと800文字に届くコメントを投稿しています。5分や10分でできる仕事ではないでしょう。パーソナライズドされたコメントからは、担当者の方の人間的な温かさを感じることができ、まさに「カイタッチ」という名が相応しい内容となっています。
カイタッチプロジェクトのサイトからは「カイタッチ済みのエントリー」が一覧表記されていますので、是非ご覧ください。人間的なインタラクション。コミュニケーションのあり方について考えさせられます。
自社の宣伝はしない。ユーザーとしての視点を忘れない。
注目したいのは、「カイタッチ」する担当者の方々は、決してコメント欄に自社の宣伝を書き込まないことです。
この点に関して、担当者の一人でもある遠藤さんはこのように語っています。
「自分が興味を持てないことは、相手も興味を持たないと思うんですよ。例えばツイッターを使っていると、私自身は企業のつぶやきを読み流してしまうことが多い。企業側の都合を押し付けても、良い手としては興味を持てないんですよね。ですから、企業の担当者ではなく、一ユーザーとして感じる視点を忘れないようにと、肝に銘じています。」
池田紀行著「キズナのマーケティング」インタビュー(p.329)より
ソーシャルメディア上の対話は、フラットなものです。実際の社会で行われている会話と同じように、画一的・一方的なセールストークは信頼しにくいですし、情報が氾濫しているソーシャルメディア上では「読み流されて」しまうでしょう。ユーザーとしての視点を持ち続けることは、関係を構築していく上で大切だと言えます。
対話の覚悟はありますか?
冒頭に述べたように、ソーシャルメディアを利用する目的の一つは、生活者との関係構築にあります。ですが、関係を構築するためには、誠実に、人間味を持って生活者とコミュニケーションを取る必要があるでしょう。機会による自動応答メッセージを用いたコミュニケーションで、愛情や信頼を得ることは、やはり難しいでしょう。
こうしたことは、現実社会のコミュニケーションにおいても同じだと思います。現実と違う点は、企業と生活者のやり取りがオープンにされ、記録されてしまうことです。お察しの通り、これは強みでもある一方、リスクにもなり得ます。
対話には覚悟が必要です。「炎上」を心配することも、また当然です。しかし、様々な事例を見る限り、もし仮に炎上したとしても、誠実に、かつ迅速に(スピードは重要です)生活者と向き合えば、ほとんどの場合ことなきを得ています。
対話を始めるにあたって一つ大切なことは、ソーシャルメディア上でのコミュニケーションの基本を社内で共有することです。求められることの多くは現実社会でのコミュニケーションと同じですが、ソーシャルメディア特有のルールや注意点なども存在します(@やRTなどの仕組み、「コメントは基本的に削除しない」など)。社内研修やガイドラインを通して、リスクを最小化しておく必要と良いでしょう。
そうしたハードルを越えて、ソーシャルメディアの海に飛び込めば、生活者との関係構築を始めることができます。覚悟も準備も必要ですが、飛び込む価値はあるでしょう。ぜひあなたも、生活者に人間的な「タッチ」という贈り物を与えてみてはいかがでしょうか?
SMMアナリスト 池田 勇人